2021 Fiscal Year Research-status Report
計算代数手法に基づく正標数の代数曲線に関する研究の深化と暗号応用への展望
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20K14301
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
工藤 桃成 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (10824708)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 代数曲線 / 超特異曲線 / 超特別曲線 / 計算代数 / 暗号応用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究実績としては,まず,原下秀士氏(横浜国立大学)との共同研究で,種数5の代数曲線に関して二つの結果を得た.一つ目は,2020年度に曲線が超楕円でもトリゴナルでもない場合に曲線の定義方程式を明示的に構成していたが,この構成を利用し有理点を多くもつ曲線を全て決定するアルゴリズムを開発した.この結果は国内外で高く評価され,計算代数幾何学の査読付きトップカンファレンスであるMEGA2021に採択されるとともに,日本数学会の2021年度秋季総合分科会を含む各種国内学会で発表した.二つ目として,曲線が超楕円またはトリゴナルの場合にも同様のアルゴリズムが得られ,その結果を国際会議ICMC2022で発表した. 次に,原下氏およびその学生の大橋亮氏(横浜国立大学)との共同研究では,正標数における種数3,4の曲線に関して二つの結果が得られた.一つ目は,種数3の場合に超特異性・超特別性の判定に用いるある種の不変量を用いて曲線の分類を行い,結果を纏めた論文を査読付き国際雑誌に現在投稿中である.二つ目として,種数4超楕円曲線の場合に超特別曲線を高速に構成するアルゴリズムを開発し,現在計算機によりデータを収集している最中である. さらに,守谷共起氏(東京大学)との共同研究において,種数2,3の曲線の算術理論の整備を行い,現在計算機への実装を行っている最中である. また,神戸佑太氏(立教大学RA)らとの共同研究では,超特異楕円曲線に関する主要な計算問題である構成的Deuring対応問題を解く高速計算法を開発し,査読付き国際会議MathCrypt2021において発表した.その後,結果を纏めた論文は査読付き国際雑誌Mathematical Cryptologyに受理された. その他として,本研究に関して前年度までに得られていた結果を纏めた論文3件が,国際雑誌に掲載が受理された
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は,2020年度の実施報告書で述べた通り,当初の計画書に記載の内容をやや変更した次の三つに取り組んだ:(課題1)超特異曲線の(非)存在性の決定,(課題2)超特別曲線の数え上げ,(課題3)超特異・超特別曲線の暗号応用に関する課題の解決. (1),(2)に関しては最終目標を達成できていないという点でやや遅れているものの,下記に述べるように中間結果が多く得られている.報告者は2020年度以降,(1),(2)に共通する解決手法として,次の二つに取り組んできた:(A)曲線全てを統一的に記述する方程式を決定し,その中から超特異・超特別曲線を探索する.(B)低種数の超特異・超特別曲線のファイバー積として,高種数の超特異・超特別曲線を実現する. 2020~2021年度では,種数5の場合に(A)における定義方程式の決定に成功し幾つか論文を執筆したが,最終目標である超特異曲線の存在を示せていない. 一方(B)では進展があり,種数2,3の曲線を利用することで種数4,5,6の超特異曲線を構成できることがわかった.そこで2021年度ではまず,利用するであろう種数3の曲線の分類と,種数2,3の曲線に関連する算術理論の整備を行った.最近,種数4超楕円の場合に超特別曲線を高速に計算するアルゴリズムを開発したので,現在計算機への実装とデータの収集を行っており,今後高種数へ拡張する予定である.このため2022年度には多くの結果が得られる見込みである. (3)に関しては,2020年度から取り組んでいる同種写像暗号の基礎となる計算問題のうち,超特異曲線に関する構成的Deuring対応問題を解くアルゴリズムを新たに開発した. 以上のように,(1),(2)はやや遅れが生じているものの中間結果が多く得られていること,(3)は順調に研究が進展している.これらの理由から,本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究成果を受けて,今後は種数4,5,6の超特異曲線あるいは超特別曲線の(非)存在性の決定と数え上げに取り組む. 特に,これらの曲線を高速に探索するアルゴリズムを開発する. ただし種数4のときは,非超楕円の場合には2021年度以前の研究で多くのことがわかっているので,2022年度は主に超楕円の場合を考察する. 種数4超楕円の場合には2021年度末にアルゴリズムを開発したので,その高速化改良に加え,計算機上で実行し計算結果の収集を行う. 2021年度に得られた結果である種数3の曲線の分類や,種数2,3の曲線の算術理論を用いて,種数5以上の場合に適用可能なアルゴリズムを開発する.得られた計算結果を利用して,超特別曲線および超特異曲線の存在性の理論的証明も行う. 並行して,2021年度に引き続き,超特異曲線や超特別曲線の同種写像暗号分野への応用に関する課題(超特異楕円曲線間の同種写像計算の高速化や,超特異楕円曲線における構成的Deuring対応問題を解くアルゴリズムの改良,これらの高種数への一般化など)にも取り組む.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響と研究計画の一部変更により,研究費の使用計画を年度内に複数回練り直す必要が生じたためである.具体的には,新型コロナウイルスの影響により,参加を予定していた国際会議がオンライン開催となり,海外渡航旅費分(約20~30万円)が未使用となった.また,本年度に購入を予定していた高い並列処理性能を持つPC(当初50万円程度を想定)についても,半導体の価格高騰により2021年度中に購入の目処が立たなかった.現在,類似品を含む複数の候補PCについて,複数のメーカーに見積もりを依頼している最中であり,2022年度上半期での購入を検討している. したがって2021年度未使用額は,上記PC(あるいは類似品)購入費用,あるいは旅費にあてる.新型コロナウイルスの影響で出張が難しい場合には,遠隔会議システム利用を中心とした設備備品費として使用したいと考えている.
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Research Products
(11 results)