2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K14345
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
檜垣 充朗 神戸大学, 理学研究科, 助教 (20868202)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 非圧縮性粘性流体 / Navier-Stokes方程式 / 外部問題 / 安定性 / 解の漸近挙動 / 境界層理論 / 正則性理論 / John領域 |
Outline of Annual Research Achievements |
無限に長い円柱の周りを流れるNavier-Stokes方程式の厳密定常解の安定性を証明した.スケール臨界な減衰を持つ二次元旋回流を水平成分とする厳密解について,中心軸方向に周期的な三次元初期擾乱に対する漸近安定性を証明した.証明は線形化方程式の各Fourier modeに関する時間減衰評価に基づく.そのため,非周期的な初期擾乱に対して漸近安定性を得ることは今後の課題である.また,Christophe Prange氏(CNRS・セルジー大学)との共同研究として,Lipschitz境界関数により微小摂動された半空間における定常Navier-Stokes方程式のlarge-scale Lipschitz評価を証明した.証明では,楕円型方程式の均質化問題を扱ったAvellaneda-Linのコンパクト性の議論を非線形問題へ応用する.その際,境界層関数の漸近挙動を精密に評価することで,境界が周期的な場合に正則性が改良されることを明らかにした.これは粗面付近の流れの構造解析の手法である壁法則と深く関係しており,解の境界正則性を流体力学的に捉えることを可能にするものである.さらに,Christophe Prange氏とJinping Zhuge氏(L. E. Dickson Instructor・シカゴ大学)との共同研究として,John領域におけるNavier-Stokes方程式の解析を開始した.研究の出発点として,定常Stokes方程式のlarge-scale Lipschitz評価や,Green関数の構成及びその各点評価などを行い,非線形方程式の境界正則性を議論する上で必要な基礎理論の整備を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画調書で挙げた「問題1. 粗面領域における定常・非定常問題に対する正則性理論」に進展があったため.特に,Lipschitz領域における定常問題の正則性評価について,その一部がJohn領域へ拡張可能であることが明らかになった.これは当初の研究計画を超えた進捗である.John領域はKoch雪片などのフラクタル境界を持つ領域を含むクラスとして知られており,自然界で見られる粗面や複雑境界のモデルとしてより妥当なものである.また,発散作用素の右逆写像の存在が知られており,定常Navier-Stokes方程式の解析を行う上で必要最低限の性質を備えているため興味深い.そのため,John領域における非圧縮性粘性流体の正則性理論は,理論・応用の両面において大きな貢献につながる可能性がある.
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Strategy for Future Research Activity |
John領域における定常問題の境界正則性理論を確立する.具体的な課題としては,非線形方程式のlarge-scale Lipschitz評価の証明や,境界層関数の構成及びその評価,境界層関数を用いた解の高次正則性の証明などが挙げられる.その際,本年度で得られた基礎理論は重要な役割を果たす.また,粗面の粗さが流体の動粘性係数に依存する場合は物理的にもより重要であるが,上述のコンパクト性の議論を適用することは難しく,今後の重要な課題である.さらに,回転物体周りにおけるNavier-Stokes流の安定性解析に引き続き取り組む.
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により,当初予定していた国内外の出張が行えなかったため.また,設備備品が予定より安価に購入できた点も挙げられる.適宜状況を判断しつつ,次年度の出張旅費として使用する予定である.また,現行の共同研究において,当該研究課題を遂行する上では,調和解析やポテンシャル論の深い知識も有用であることが判明した.そのため,研究計画段階では予定していなかった,これらの分野の研究集会への参加や関連図書の購入等による情報収集の拡充を予定している.
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