2021 Fiscal Year Research-status Report
Theory and Analysis for population decline society by using generalized Leslie matrix
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20K14368
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
大泉 嶺 国立社会保障・人口問題研究所, 人口構造研究部, 主任研究官 (80725771)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地域間移動 / タイプ別再生産数 / 確率制御方程式 / 固有システム / 個人差 / 環境変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度では研究では確率解析の視点にたち, 一般化レスリー行列の固有ベクトルなどの数学的な構造をマルコフ過程の性質を中心に理論構築を行う事を目指した.理論的背景および2015年のデータを元に解析を行った結果は現在論文投稿中である.解析結果の一部は数理生物学会の国際大会においても報告している(SMB2021).一方本年度では,一般化レスリー行列の固有システムを解析する上で,タイプ別再生産数という純再生産率とは異なる一般化レスリー行列の固有の指標との関連を示すことが出来た. そこで,2015年のデータを用いて各都道府県のタイプ別再生産数を計算し,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌である「人口問題研究」にて公表した. この結果では出生地と同じ地域で再生産する出生率がその地域の再生産数を支配していることを示すことが出来た. 一般化レスリー行列の固有システムの構造はその無限次元版と対応する多状態―年齢構造化人口モデル(偏微分方程式による数理モデル)と同じ構造をもつ. そこで,この無限次元モデルの固有関数の解析を行った結果,随伴固有関数が満たす方程式から人口増加率を最大にするための制御方程式を導くことが出来た. その結果は電子学術ジャーナルのPlos Oneにて公表されている. この結果では,人口動態と個人のライフコースの関係を定式化出来ただけでなく,生活様式の進化など広く一般に応用できる可能性を開くことが出来た. また,行列モデルで既に知られている環境変動が個体群に与える影響を評価する方法として摂動論を用いた手法があるが,これも随伴固有関数を用いて無限次元モデルへの拡張を試みた. その結果、体サイズ成長率のような個人差を持つ量に関して,環境変動下ではより個人差がある方が種の絶滅リスクを回避するという従来の考えを裏付ける数学的背景を導くことが出来た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も2020年度と同様,新型コロナウィルス感染症の影響が強く,国内外の遠方の研究者との交流は制限されたままであった. そのため,研究結果の議論や論理の組み立てに関して対面の議論が出来なかった事は研究成果を纏める上で想定より時間がかかった事は否めない. データ解析においては2015年の国勢調査を基軸とした解析は終わり,一般化レスリー行列に関する基本的な数学的理論構築は概ね目標を達成出来ている. 一方で2021年に2020年国勢調査の公表が成されており,現在はそのデータを元に2015年と同様の解析を行った上で人口減少の普遍的構造を解明していく途上である. 理論構築過程において当初想定していなかったタイプ別再生産数という指標が,一般化レスリー行列の固有ベクトルを解析する上で密接に関連していることが分かった. これは,本研究の副産物であるが,人口移動の傾向に大きな変化がない場合将来の子孫の出身地の構成に関わるので今後の解析の一つの指標として着目している. また,一般化レスリー行列の固有ベクトルの構造を解析する過程でそこで生まれた定理(現在投稿中)は積分方程式にも応用出来る見込みがある. その展望から多状態―年齢構造化人口モデルに遺伝や世代の構造を組み込む事ができる可能性がある. この点に関しても現在検討中である.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年国勢調査が公表されている事もあり,本年からは最新のデータを用いた解析を行う予定である.2020年国勢調査およびその近年の政府統計をベースとした一般化レスリー行列により感度解析を行う. 2010年、2015年の国勢調査による感度分析(現在投稿中)によると人口移動傾向や出生率の地域差に大きな違いが無いように見られる. この5年間には東日本大震災が起こっており日本国民の日常生活に大きな影響を及ぼした時期であるにも関わらずそうした結果である. 2020年国勢調査はコロナ禍で行われたが,少子高齢化に変化が乏しい現状では恐らく2010年からの10年間に感度の大きな変化は無いと予想できる. この予想が正しいかどうか2020年国勢調査のデータによる解析をするつもりである. 2021年度では,理論的な視点においては,変動環境下における齢―多状態構造化人口モデルの長期的振る舞いと生活史の最適制御に関する解析手法を開発した.これまでのモデルでは親が再生産した地域が子の出身地となる,といった広い意味での遺伝や継承という点が無視されていた. 2015年の国勢調査による感度分析(現在投稿中)において開発した遺伝を表現する定理を無限次元モデルに拡張を試み,世代を超えた人口構成や進化的なフレームワークの構築を行いたい. また,これまでは一つの性別および種内相互作用しか扱ってこなかったが,これらの手法を生物一般に拡張し,種内だけでなく種間競争をも扱うモデルを構築と解析をする予定である.
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Causes of Carryover |
2021年度も新型コロナウィルス感染症により,海外渡航の制限,学術集会等会議のweb化に伴い,旅費の支出がなかった為である. 今年に関してもコロナウィルス感染症や国際情勢の状況に応じて対応を見極めたい.
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