2020 Fiscal Year Research-status Report
GaAs半導体横型量子ドットを用いた単一電子とテラヘルツ光子の強結合状態の実現
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20K14384
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒山 和幸 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20861602)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | GaAs横型量子ドット / テラヘルツ電磁波 / コヒーレント結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
GaAs半導体2次元電子系に作製した量子ポイントコンタクト(QPC)や量子ドットといった量子ナノ構造に対して、テラヘルツ分光測定を行った。 GaAs半導体基板上にTHzアンテナを作製し、その近傍にQPCを設置した。この試料に周期的に強度変調したTHz波を照射して、それにより誘起されるQPCにおける伝導度変化をロックイン検出により測定した。その結果、QPCのサブバンド間隔のエネルギーに一致するTHz周波数において、明瞭な伝導度の増大が得られた。さらに、伝導度変化の得られた周波数の磁場依存性を確認すると、磁場の増大に伴って高周波側に遷移していくことが分かった。これは、QPCにおける磁気閉じ込め効果によるサブバンド間隔の増大として解釈される。実際に、サブバンド間隔の理論計算を行った結果、実験結果の磁場依存性と非常に良く一致した。 同様の実験を単一横型量子ドットに対しても行った。その結果、QPCとは異なり、複数の周波数で共鳴励起による伝導度変化が確認された。さらに、磁場の増大に伴って、高周波側および低周波側に遷移する2種類の信号が観測された。これは、ドット内で電子が左右どちらの方向に回転する角運動量を持つかによって、遷移方向が異なると解釈できる。 最後に、2次元電子系とテラヘルツ共振器との間に超結合状態を観測した。共振器として用いたスプリットリング共振器は、そのギャップ領域で顕著な電場増強効果を示し、それにより2次元電子系と強く結合する。QPCにより2次元電子系の電気伝導を共振器のギャップ領域に制限して磁気分光測定を行った結果、サイクロトロン運動のエネルギーが共振器の共鳴するときにコヒーレント結合を示す分散の反交差が確認された。その間隔から結合強度を見積もった結果、共振器の光子のエネルギーの1/10程度にまで高められており、超強結合状態を実現できていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題の申請時点では、QPCの実験は考慮していなかったが、量子ドットと比較して、より単純なナノ構造から研究を開始する方が、物理的な知見や研究の方針が得やすいと考え、研究内容をそのように修正した。QPCにおいてもドットと同様な、閉じ込めポテンシャルによるサブバンド構造が形成されることが知られており、THz電磁波によりサブバンド間の共鳴励起現象の観測が期待できる。さらに、サブバンド間隔が結合するTHz共振器とエネルギー共鳴になっていれば、電子-共振器間のコヒーレントな相互作用を実現できる。申請者のこれまでの研究で、QPCのサブバンド間共鳴励起の観測には成功しており、さらに、QPC近傍の電子系と共振器との超強結合状態も実現できることが明らかになった。また、外部からの積極的なTHz電磁波照射を行わなくても、共振器の共鳴エネルギー程度のソースドレインバイアス電圧をQPCに印加することによっても、QPCの電気伝導特性が特異な振る舞いを見せることが分かってきた。これは、真空の共振器とQPCとの相互作用を観測しているものと解釈しており、結合強度が非常に高められている場合には、真空の共振器であってもナノ構造中の電気伝導に大きな影響を与えることも明らかになってきた。このように、QPCという単純なナノ構造を用いることでも、申請時には予測していなかった様々な新奇現象が現れることが分かってきたことは、研究の進捗として評価すべき点であると感じている。 また、以上のQPCの実験結果をもとに、申請時に提案した量子ドットの研究課題を開始している。これまでに。QPCと同様なTHz分光測定によって、量子ドットの量子準位間の共鳴励起現象や、ドットに結合した共振器による伝導度変化の増大までは実現できている。QPCとは異なりドットは回転対称性があるので、電子の軌道角運動量に対応した複数の共鳴励起過程を同定できている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗をもとにQPCや量子ドットとTHz共振器とのコヒーレントな結合状態を実現するための研究を進める。現段階では、QPC近傍の2次元電子系と共振器との超強結合状態を実現できているが、QPCや量子ドットの内部の電子と共振器とのそのようなコヒーレントな結合状態は未だに実現していないと考えている。したがって、今後はCOMSOLなどの電場シミュレーションによって、共振器の構造を改良していく。また、強い結合強度は、共振器との相互作用に関与する電子数が多いほど大きくなることが予想されている。したがって、QPCを伝導する量子化チャネルの本数や、量子ドットに内包する電子数に関して、結合強度を調べる。これらの試みにより、コヒーレントな電子-共振器結合系の実現に向けた知見を得る。以上の研究が上手くいけば、2つのナノ構造を、共振器を介して遠隔にコヒーレント結合する実験も検討している。そのようなマクロな結合によって、一方のナノ構造の電気伝導が、離れた別の構造の伝導特性に影響を与えうるかを実験により検証する。 また、これまでに観測が成功している量子ドットにおける準位間共鳴励起をさらに発展させて、電子の共鳴励起過程におけるスピンのダイナミクスを調べる研究にも着手する。新たに二重量子ドットを導入し、スピン閉塞効果を利用して、電子の軌道間励起に伴うスピン反転現象を二重ドットのリーク電流として読み出す。既に、高性能のGaAs量子井戸基板の成長や、微細電極の半導体プロセス技術は確立している。それにより、二重量子ドットといったより複雑なデバイス構造の作製も比較的容易に実現できるものと考えている。
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Causes of Carryover |
緊急事態宣言などの影響により、研究所での研究にもある程度の制約があったために、実験に使う消耗品の購入が少なかった。また、学会がオンライン開催になったことにより、旅費の費用負担がなかったことが、理由に挙げられる。コロナウイルスの感染状況は依然として厳しいが、研究の制約は徐々に緩和してきている。そのため、繰り越し分は、次年度の物品購入費に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)