2021 Fiscal Year Research-status Report
GaAs半導体横型量子ドットを用いた単一電子とテラヘルツ光子の強結合状態の実現
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20K14384
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒山 和幸 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (20861602)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 半導体量子ドット / テラヘルツ電磁波 / 強結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、GaAs半導体量子ドット中の電子とテラヘルツ領域に共鳴周波数をもつオンチップのスプリットリング共振器との強結合を実証することを目的として研究を行った。GaAs/AlGaAsに蓄積する2次元電子系に形成された量子ドットをスプリットリング共振器の近傍に設置した試料を作製した。この結合系試料に対してTHz電磁波を照射し、量子ドットにおける電磁波誘起の光電流の測定を行った。量子ドットに捕捉した電子のエネルギーは、試料に印加した磁場の大きさで制御することができる。その電子のエネルギーが共振器の共鳴周波数と一致する条件で、テラヘルツ電磁波を外部照射すると、電子と共振器との間でコヒーレント結合に特徴的な反交差信号を観測した。また、電子と共振器の結合強度を評価すると、超強結合状態と呼ばれる非常に強い結合状態を実現できることが確認できた。超強結合状態は、通常、数千個という非常に多数の電子の集団励起が共振器と結合したときに起きる現象であるが、今回の実験では、ドット内に電子が3,4個捕捉された状態でも超強結合状態を実現できることが明らかになった。この結果は、超強結合の物理を解明に繋がるだけでなく、量子情報処理技術や量子計測技術における新たな研究展開を創出しうる成果であると考えている。 また、オンチップの共振器は、その周辺の2次元電子系において様々な電子の集団励起状態(マグネトプラズモン)も生成する。量子ドットの電気伝導を測ることによって、それらの励起エネルギーを観測することも可能であることが明らかになってきた。特に先行研究と比べて、非常に高次の励起モードまで明瞭に観測されており、理論計算とも定量的な一致を見せている。今後より詳細なメカニズムを検討し、量子ドットとスプリットリング共振器の強結合に与える影響などを検証したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で目的に掲げていた量子ドット中の電子とオンチップのテラヘルツ光共振器との強結合状態の実現できていると考えており、本研究はおおむね順調に進展していると結論付けている。また、計画段階では予期していなかった結果として、二次元電子系における高次のマグネトプラズモン励起の観測や、マグネトプラズモンと高次のサイクロトロン遷移との超強結合状態や、量子ポイントによるサイクロトロン遷移と共振器との超強結合状態の制御など、新奇性の高い物理現象を発見することができた。これらの実験結果も学術論文として報告しつつ、さらに展開させられるか今後検討を続けていきたい。 一方で、実験計画の最終段階に定めていた、二重量子ドットを用いた結合状態におけるスピンダイナミクスを検証する研究はいまだ着手できていない。高品質の二次元電子系半導体基板の成長や、電極などの試料作製技術は既に高いレベルで確立しつつあるので、二重量子ドットと共振器との結合試料の作製も比較的容易に実現できるものと考えている。 また、これまでの実験では、比較的磁場が大きく、磁場による磁気閉じ込めが、量子ドットが本来持っているの静電ポテンシャルの閉じ込めよりも大きいので、電子の励起はランダウ準位間で起きているものと考えている。しかし、電子と共振器との強結合をより低い周波数で実現できれば、量子ドット本来の軌道構造に伴う強結合の物理を調べることができる。それにより、共振器との結合強度のゲート電圧による制御や、軌道角運動量による軌道励起の選択則による結合強度の変調などが可能であることも検証していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は、まず、より電子数の制御性の高い量子ドット試料を作製して、単一電子とスプリットリング共振器との超強結合状態を実現する。先行研究では、少数電子はフェルミ統計に、プラズモンのような多体電子の集団励起はボソン統計に従うので、ドット中の電子数を制御できれば、これらの超強結合のフェルミオン―ボソンクロスオーバーが観測できるという提案がなされている。これまでの研究で実現した量子ドットと共振器との(超)強結合系はそのような物理を調べるのに非常に適していると考えている。また、超強結合状態においては、電子と電磁波の相互作用の一次摂動だけではなく、高次の摂動項に伴う仮想状態(光子)に伴って現れる様々な物理現象が理論的に予言されており、近年実験でもそれらが確かめられつつある。私も、これまでの研究を活かして、量子ドットの電気伝導を使うという視点から、超強結合状態の新奇な物理の開拓を世界にリードして進めたい。 また、当初の研究計画の通り、二重量子ドットを導入して、二重ドットと共振器とが強結合状態にある条件下において、電子スピンのダイナミクスを検証する実験に着手する。磁場を印加した二重量子ドットで発現するスピン閉塞効果を用いて、強結合状態において、スピンの物理的振る舞いがどのように変化するかを実験により調べる。また、InAs系のようなスピン軌道相互作用がより大きな半導体材料を使用することで、強結合状態のスピンへの影響をより明瞭に観測するような研究方針も検討しつつある。二重量子ドットによる研究を足掛かりにして、電荷と光共振器だけではなく、スピン自由度と共振器との強結合系の実現も検討していきたい。
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Causes of Carryover |
2021年12月よりフィンランドのAalto大学で1年間の在外研究を行うことになり、当初の研究計画を一時中断しております。そのため、帰国後に研究を再開した際に、必要な物品やクリーンルーム使用料の負担に使用させていただく予定にしております。
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Research Products
(3 results)