2021 Fiscal Year Research-status Report
有機導体における電荷異常物性の研究―核四重極共鳴によるアプローチ
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20K14401
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小林 拓矢 埼玉大学, 研究機構, 助教 (50827186)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機伝導体 / 核四重極共鳴 / 電荷秩序 / 強相関電子系 / 反強磁性 / 超伝導 / 核磁気共鳴 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度電荷秩序の観測に成功した、α-(BEDT-TTF)2I3の127I-NQR測定の結果をさらに考察するために、同型の有機超伝導体であるβ-(BEDT-TTF)2I3に対しても127I-NQR測定を行った。高温におけるスピン-格子緩和率の絶対値はデバイ温度で決まっていると考えられ、両塩は同程度であると予想していたが、60倍も異なることを発見した。この性質については現在考察を進めている。また低温において、β型塩のスピン-格子緩和率が予想に反して増大することも明らかになった。β型塩においては、常圧で175K以下における超格子構造の発達によって超伝導転移温度が8Kから1.5Kまで低下することが議論されているが、どのようなメカニズムで超伝導が抑制されているかの知見は得られていない。今回の実験結果は、超伝導転移温度近傍における何らかのダイナミクスが超伝導を抑制している可能性もあり興味深い。今後、超格子が抑制される圧力下での127I-NQR測定を行い、超伝導と低温のスピン-格子緩和率の増大の関係を明らかにする。 昨年度に行った、有機反強磁性体λ-(BEDSe-TTF)2GaCl4の常圧から1.5GPaまでの圧力下69,71Ga-NMR測定に加え、2.5GPaまでの実験に成功した。常圧で観測されている反強磁性秩序が、約1GPaの圧力で抑制され、さらに2.5GPaの圧力を印加すると、再び反強磁性秩序が現れることを発見した。またその転移温度は常圧のものよりも2倍以上大きい。この圧力変化は、研究当初予想していたものと大きく異なるものであり、反強磁性相に挟まれた量子スピン液体相や、層間相互作用の変化による3次元秩序の抑制などいくつかの描像が考えられ大変興味深い。来年度は、圧力下における物性をより詳しく調べるために、圧力下での構造解析や13C-NMR測定を計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
λ-(BEDSe-TTF)2GaCl4の温度圧力相図をGa-NMR実験により構築し、当初の予想とは異なる成果が得られた。この研究に関して、研究代表者が指導する安村氏が2022年年次大会、日本物理学会領域7学生優秀発表賞を受賞しており、エビデンスも得られている。またβ-(BEDT-TTF)2I3塩の127I-NQR測定にも成功し、予定していなかった成果が得られている。 量子スピン液体候補物質として知られるκ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3系の物質に関しても研究を進めており、同型のBEDSe-TTFに置換した有機導体の合成に成功した。この塩はBEDT-TTF塩よりもMott転移近傍に位置し、より小さい圧力で超伝導を示すことを明らかにした。ただし、BEDT-TTF塩の物性と非常に近いため、BEDT-TTF塩で報告されている6K異常や誘電物性などが量子スピン液体特有のものか、この系特有のものかを明らかにできると考えられる。 一方で、昨年度実施した、電荷ガラス状態を示す物質として知られているθ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4のRb-NMRの結果を考察するために、θ-(BEDT-TTF)2CsZn(SCN)4に対しても133Cs-NQR測定を行った。133Cs核の小さい四極子モーメントのために、スピン-格子緩和時間が温度を下げると測定不可能なほど長くなり、物性測定が困難であるという問題が明らかになった。 これらを総合して、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、当初の計画通り、α-(BETS)2I3の127I-NQR実験を実施する準備が進んでいる。またκ-(BEDT-TTF)2CU2(CN)3の圧力下の物性に対応した、BEDSe-TTF塩やBEDT-STF塩の試料を用いた63,65Cu-NQR実験の準備も完了しており、精力的に実験を行っていく。 また、λ-(BEDSe-TTF)2GaCl4の圧力下13C-NMRやキュービックアンビルセルを用いた超高圧下電気抵抗測定も計画しており、この物質で見つかった圧力下における特異な電子状態を多角的な視点から解明していく予定である。
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Causes of Carryover |
参加予定の国際会議が、COVID-19の影響で相次ぐ延期・オンライン開催での決定により、参加できなくなった。今年も状況を見ての参加となるが、既にInternational Symposium on Crystalline Organic Metals, Superconductors and Magnets (ISCOM2022)の国際会議に申し込んでおり、国際会議参加費として使用する予定である。
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