2020 Fiscal Year Research-status Report
パルス磁場中精密測定で拓く有機固体の強磁場量子物性
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20K14406
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
今城 周作 東京大学, 物性研究所, 特任助教 (30825352)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パルス強磁場 / 熱測定 / 有機超伝導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、パルス強磁場中での精密測定装置の開発とその装置を用いた有機伝導体の新奇量子状態の探索・議論を行うことを目的としており、当該年度では測定装置の開発と測定環境の整備に注力した。 まず、本課題で主体としていたパルス磁場中の熱測定装置の開発であるが、測定プローブ設計の刷新、温度計の最適化、新規測定手法の導入により、既に世界最高精度であったパルス磁場中比熱測定の測定精度の向上や測定可能温度範囲の拡張に成功した。また、磁場に対する角度依存性を測定するため、精密角度回転機構の設計・開発を行い、測定環境の整備が完了した。 これらの装置を用いて、本課題で目的としていた有機超伝導体の強磁場電子状態の研究を行なった。比熱測定では、代表的な有機超伝導体の一つ、κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの30テスラ以上強磁場における電子熱容量の磁場依存性が明らかとなり、超伝導の対称性を議論する上で重要な情報となった。また、2021年度に計画していた研究内容であるが、この物質において、精密角度回転機構を搭載した測定プローブを用い、磁場を伝導面に精密に水平に印加した際にPauli限界磁場で磁場侵入長に転移を示唆する異常が観測され、FFLO超伝導が発生している有力な証拠を掴んだ。その他の試料においても、磁場侵入長だけでなく電気抵抗など各種の測定を精密角度回転磁場中で行うことに成功し、FFLO超伝導状態の詳細を議論することに成功した。 これら装置は本研究課題だけでなく、所属する研究室が受け入れている国内・海外の複数の共同研究において活用されており、その研究結果が複数の学術論文として出版・投稿されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
COVID19情勢のために長期の在宅勤務期間があり実験期間が短縮したものの、設計などの準備期間をしっかり取ることができたため、研究実績概要にも記述した通り装置開発にも試験的に行なった測定にも大きな問題が起こらず順調に研究が進んだ。 装置の開発に関する学術論文だけでなく、その装置を用いた研究結果に関しても複数の論文が既に出版され、現在も投稿中である。また、開発装置を用いた共同研究の件数も増えてただけでなく、2021年度に計画していた測定に関しても既に一部完了しており、当初の計画よりも進捗が出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
測定装置の開発や精度向上は順調に進んでいるが、更なる向上が研究の幅を広げるため、引き続き設計や材料選択などによって改良を図る。また挑戦的な課題ではあるが、整備として磁気熱量効果を用いて0.5ケルビン以下の測定が可能な測定環境を構築を検討している。これは磁性材料のプローブ内配置やサーマルアンカーの性能を含めた設計を適宜試験しながら準備・開発していく。 開発装置を用いた有機超伝導体のパルス磁場中測定に関しては、引き続きFFLO超伝導の研究を主体に、熱測定や電気抵抗、磁場侵入長、超音波測定などの各種の測定を行うことで多角的な議論を行い、FFLO状態に関する軌道効果や常磁性効果の影響について解明する。また、本研究で開発する装置をその他物質系や他物性へも応用することで、本課題のパルス磁場中精密測定装置の重要性・可能性を世界的に周知する。
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Causes of Carryover |
本年度はCOVID19情勢により長期の在宅勤務期間があり実験可能期間が短縮されたため、実施予定であった装置開発の一部に遅れが生じ、また、その計画に使用予定であった物品について業者の納期にも遅れが生じた。更に、予定していた国際会議や国内研究会への参加が全てキャンセルとなり、旅費に配分予定であった予算が次年度使用額へと繰り越すこととなった。 次年度の助成金使用計画については、物品費は本来の予定通りに使用する予定であるが、旅費に関しては、現状、会議や研究会への現地参加が世界的にも厳しいと考えられる。次年度旅費として計上していた予算は、本年度で遅れが生じた一部計画である極低温実験環境整備への補填や更なる測定環境向上の消耗材料費として使用する。また、開発した装置を用いた測定に関しては予定より順調に進行しているため、想定より多くの成果が出ており、これらの成果を学術雑誌へと投稿する際に必要となる投稿料や校正費へも使用する予定である。
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Research Products
(8 results)