2023 Fiscal Year Research-status Report
Microscopic theory for nonequilibrium steady states of Mott insulators
Project/Area Number |
20K14407
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北村 想太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (40848553)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 非平衡 / 強相関系 / 超伝導 / トポロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、微視的理論に基づいて、モット絶縁体が非平衡定常状態におかれたときに生じる様々な物性を明らかにすることを目指している。 今年度は、(1)強い直流電場による絶縁破壊現象の量子マスター方程式に基づく定式化と(2)円偏光レーザーの照射によるドープされたモット絶縁体系でのトポロジカル超伝導状態の数値シミュレーションの研究に主に取り組んできた。 (1)絶縁体において直流電場を印加した際には、非摂動的な効果によって絶縁破壊が起こり、大きな電流が流れる。絶縁破壊状態における電子の非平衡分布を決定するための方法論として、量子マスター方程式を用いた定式化に今年度は取り組んできた。 量子マスター方程式の最も簡便な扱いとして緩和時間近似(もしくは半導体ブロッホ方程式)と呼ばれるものが広く用いられているが、絶縁体の直流伝導現象にこの手法を適用すると、多バンド効果によって弱い電場を印加しただけでも非物理的な電流が生じてしまう致命的な問題があることを数値計算・解析計算の両面から明らかにした。我々は微視的な量子マスター方程式に立ち戻って緩和時間近似に対する補正を導出することで、計算量をほとんど変えずにこの問題を解消する緩和項の導入方法を提唱した。この成果は論文にまとめ、現在投稿中である。 (2)過年度の研究で、円偏光の照射によってハバード模型に時間反転対称性の破れた相互作用を導入することができ、それによりd波超伝導がトポロジカル超伝導へと変調されることを見出してきた。今年度は、前理論提案の理論手法ではアプローチできない低周波数帯の光を照射した場合の超伝導体のダイナミクスの数値シミュレーションに取り組んだ。超伝導ギャップ関数を自己無撞着に決定しながら円偏光レーザー中の電子の時間発展を計算し、低周波領域においてもトポロジカル超伝導が発現することを明らかにした。今年度はこの成果を論文にまとめ出版した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度から進めてきた研究課題が順調に進展し、論文2編にまとめることができた。 緩和時間近似という既存の広く用いられている方法論で深刻な問題が発生することを突き止めたことは予想外の成果であったが、絶縁破壊現象の理解を深めるのみならず、より広く非平衡状態における物性を理論的に調べる上で役に立つ重要な結果であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)については、外場を非摂動論に取り扱う計算手法の整備が進んだことを受けて、この手法を応用した非相反伝導現象の解析に取り組み始めているところである。特に、強い電場中の電子に特有な現象であるブロッホ振動における幾何学位相効果に着目した解析が進行中である。 また、並行して交流電場に対する非摂動的な応答の理論的な定式化にも取り組み始めている。
(2)については、銅酸化物以外の様々な超伝導体に今回の理論提案で用いた機構が応用できないか検討していく予定である。
|
Causes of Carryover |
過去、コロナ禍による研究会や国際会議の中止のために発生した旅費の未使用額がまだ残っている。研究期間を延長し、国際会議でこれまでに得られた研究成果を発信するための旅費に充てる。
|