2021 Fiscal Year Research-status Report
磁性体における新規輸送現象 ―対称性とトポロジーの観点から―
Project/Area Number |
20K14411
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
赤城 裕 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (20739437)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピンNernst効果 / 非線形応答 / ベリー曲率双極子 / 磁性体 / 輸送現象 / 物性理論 / スキルミオン / 分数スキルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
物質中の粒子が外場とは垂直に流れるといった非自明な輸送現象が、ベリー曲率の観点から次々と調べられている。中でも、磁性体中の輸送キャリアであるマグノンによるスピンNernst効果は純スピン流の生成手段の1つである。しかし、線形応答のみを考慮した既存の理論的枠組みの中では、Dzyaloshinskii-守谷(DM)相互作用などの重い原子に由来した特有の相互作用を必要としていた。 そこで本年度は、ネール反強磁性体における温度勾配に関する2次までの応答理論を構築し、マグノンの非線形スピンNernst効果を定式化した。特に、非線形スピンNernst流が波数空間におけるベリー曲率の双極子モーメントのような量(拡張ベリー曲率双極子)で記述されることを明らかにした。マグノンの拡張ベリー曲率双極子はDM相互作用などの特有の相互作用がなくても、系の対称性を崩すだけで容易に現れる。そのため、本成果のマグノン非線形スピンNernst効果は、広い範囲の単純な反強磁性体で期待できる純スピン流生成の機構となっており、本研究では実際に多くの候補物質も提案した。また、純スピン流の向きが歪みにより変更可能なことや、典型的な磁性体で十分に観測可能であることも示した。とりわけ、軽元素で構成されるためDM相互作用が無視できるほど小さいような有機物磁性体において、力学的に歪ませやすい特性を利用することで、純スピン流を発生させることが期待される。 本年度はさらに、CP2非線型シグマ模型にポテンシャル項と安定項を加えることで、スピン液晶分数スキルミオンを数値的に構成した。これは物性分野でよく知られたメロンの一般化であり、各々のスピン液晶分数スキルミオンはトポロジカルチャージ1/3を持つ。この成果は、整数値を返すホモトピー論だけでは予想ができない、数値計算をすることで初めて分かる微視的構造である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記載したように、広い範囲の単純な反強磁性体において新規輸送現象であるマグノン非線形スピンNernst効果が起こりうることを明らかにしただけでなく、トポロジーに関連した新しいトピックについても重要な研究成果(磁性体におけるスピン液晶分数スキルミオンなど)が得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の順調な研究の進捗状況をふまえて、予定通り2022年度の研究計画を遂行する。また、今年度も研究計画に無かった成果を挙げることが出来たため、それらの問題についても深化・発展を図る。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、宿泊・交通費の出費が当初の予定より大幅に少なくなったため。 使用計画としては主に、本研究の遂行に協力してくださる研究員を雇うための人件費等にあてる。
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Remarks |
https://sites.google.com/site/yutakaakagiacademian/
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Research Products
(21 results)