2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K14414
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
広瀬 雄介 新潟大学, 自然科学系, 助教 (00647125)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 励起子絶縁体 / 不純物効果 / 元素置換 / 新物質探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
励起子絶縁体候補物質であるTa2NiSe5のTaおよびNiサイトの元素置換物質の物性測定を行った。励起子絶縁体転移温度Tcで電気抵抗に大きな折れ曲がりが観測でき、これまで行なってきた元素置換物質に関してTcと置換量との関係を明らかにした。Ta2NiSe5の常圧での励起子絶縁体状態は、3GPa以上の圧力で不安定化し、一次転移的に消失する。そのような圧力領域では、新たな構造相転移が現れ混成ギャップの形成が見出されている。この高圧相の電子状態の性質について不純物効果という観点から調べるために、置換物質の加圧実験を行なった。その結果、圧力誘起の混成ギャップ状態は、置換元素に対して大きく異なる応答を示すことがわかった。この違いは、置換元素がどのような不純物として機能しているかに依存しており、キャリアドープによって高圧相が大きく抑制されていることを示唆する結果であった。 本研究で作製したV置換した試料は、従来よりも10倍以上分厚いものがあり、Ta2NiSe5の物質系で初めて超音波の実験を行った。励起子秩序に由来すると考えられる構造相転移温度に向かって、弾性定数C55が90%もの巨大なソフト化を示した。理論的には転移温度で超音波吸収ピークが見えることが励起子絶縁体であることを示す重要な証拠となるが、C55では転移温度付近での吸収が大きすぎて、ピークの有無についてはまだ結論できていない。他の振動モードに対しても超音波吸収を測定しているが、試料の形状や脆さなどから再現性のある結果が得られていない。 励起子絶縁体の研究はその候補物質の少なさのために発展途上にあり、候補物質の探索も行った。構造な特徴に注目し、励起子転移が期待される物質の作成に取り組んだ。その過程で新物質の育成に成功し、基本的な物性測定を行い、この新物質が強磁性と反強磁性が競合した重い電子系化合物であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
元素置換したTa2NiSe5への圧力実験から、Ta2NiSe5の高圧相の電子状態がキャリアドープに敏感に応答するなどの特徴を明らかにしたことや、V置換したTa2NiSe5の超音波実験を行うなど、置換物質を使って研究を発展させることができた。超音波実験の結果については論文にて発表を行なっているが、常圧における置換量とTcの関係についての論文発表は、一部の試料が組成分析のためのEPMA装置の故障や寒剤の供給停止期間があり、予定通りに進まなかった。一方で、物質探索によって見つけた新物質については、論文発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで数種類の元素でTa2NiSe5への置換効果を調べてきたが、他の元素でも置換可能かを調べるために、TaサイトをZrなどのIV族およびCrなどのVI族の元素での置換した試料作成を行なう。いくつかの元素でTa2NiSe5とよく似た形状の単結晶が得られた。これらの単結晶の電気抵抗測定からTcが抑制されていることがわかり、低温での電気抵抗は半金属的な振る舞いを示すことがわかった。このような振る舞いは、半導体的な電気抵抗の温度依存性を示す他のTa2NiSe5置換系で見られるものとは大きく異なっており、どのような元素置換効果があるのか興味がもたれる。まずは組成分析や構造について調べ、置換効果についてもホール抵抗などの物性測定を行う。 励起子絶縁体転移では、電子と正孔からなる励起子対が自発的に生成されるが、Ta2NiSe5における励起子対のスピン状態は一重項であると考えられているが、磁場応答など直接的な実験はなされていない。そもそもTa2NiSe5の励起子転移温度は約330Kと発生させることのできる磁場のエネルギーに対してかなり大きい。そこで、本研究で得られた転移温度を250K程度まで抑制した置換物質を用いて、強磁場での電気抵抗の振る舞いからTcの温度依存性などを調べることで、スピン状態を明らかにすることを目指す。
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Research Products
(5 results)