2020 Fiscal Year Research-status Report
Relationship between magnetic anisotropy and anisotropic electronic structure studied by soft x-ray spectroscopy
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20K14416
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
芝田 悟朗 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 助教 (20747026)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁性体 / 磁気異方性 / X線分光 / 薄膜 / 層状物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁性薄膜や層状磁性体は、その二次元的な結晶構造に由来して強い磁気異方性を示しうることが知られている。特に、面直方向に磁化容易軸をもつ磁性薄膜や磁性材料は、スピントロニクスへの応用の観点からも有望であると言える。これらの磁気異方性は一般に、二次元的結晶構造に由来する電子状態の異方性によって引き起こされると考えられる。この電子状態の異方性を分光学手法によって明らかにするため、当グループで開発したベクトルマグネットX線磁気円二色性(XMCD)測定装置を用いたXMCD実験, X線磁気線二色性(XMLD)実験による磁性薄膜・層状磁性体の研究を行ってきた。本年度の主な研究成果は下記の通りである。 (1)強誘電性と強磁性を併せ持ち、かつ垂直磁気異方性を示すFe2Mo3O8薄膜について、ベクトルマグネットXMCD測定装置を用いたXMCD, XMLD測定を行った。本物質は複数の異なる結晶対称性をもつFe原子が存在しているが、それらの対称性の違い、およびFeの価数の違いを反映したXMCD, XMLDスペクトルの観測に成功した。特にXMLD実験では、常磁性状態から強磁性状態に転移するにつれてスペクトル形状の変化が観測され、磁化に由来するFeの電子軌道状態の変化が観測されたと考えられる。 (2)Feを層間に挿入した層状化合物TiS2は垂直磁気異方性を示し、かつ数テスラにおよぶ非常に大きな保磁力を持つ強磁性体であることで知られる。この物質についても同様にXMCD実験を行った。一般に多くの遷移金属磁性化合物では、磁性元素の軌道角運動量が孤立原子の場合よりも非常に小さな値に抑えられることが知られているが、本物質中では、挿入されたFeが非常に大きな軌道磁気モーメントを持っていることが明らかになった。本研究結果に基づいて垂直磁気異方性の起源について議論を行い、論文投稿を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度前期は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により実験活動が制限されたが、後期には従来通り放射光実験のビームタイムを確保することができ、【研究実績の概要】(1)(2)に示すような角度依存XMCD装置を用いた実験を行うことができたため、概ね想定通りのペースで実験が行えていると考えている。現時点ではまだ論文として出版されている結果は出ていないが、(2)の結果については既に論文投稿を行っており修正の段階に入っているため、次年度の早い段階で論文化が見込めると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
・【研究実績の概要】の(2)で記載したFe挿入TiS2の関連物質として、Feを挿入した層状遷移金属ダイカルコゲナイドTaS2が、TiS2の場合よりもさらに大きな保磁力を示すことが知られており、現在この物質の角度依存XMCD測定に向けて準備を進めており、次年度(2021年度)より実験を開始する予定である。 ・また、研究計画で記載した、垂直磁気異方性を示す金属薄膜であるCo/Ni多層膜およびL10型FePt薄膜の角度依存XMCDについても実験準備を進めており、同様に次年度(2021年度)以降に実験を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で全ての学会発表がオンライン開催となったことや年度前半の実験(ビームタイム)の多くがキャンセルとなったことで旅費が想定を大きく下回った。また、出張が制限されたことにより、KEKでのベクトルマグネット装置のメンテナンス作業が制限されていたため、当初予定していた高額物品(ターボ分子ポンプ)の購入を先送りした。 学会旅費については次年度も当初予定を下回ることが予想されるが、実験(ビームタイム)および装置メンテナンスのための出張は2021年4月現在通常通り行えるようになっているため、次年度使用額はこれらの旅費、および当初予定していたベクトルマグネット装置用の物品(ターボ分子ポンプ)の購入費に充てる予定である。
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