2021 Fiscal Year Research-status Report
金属ポルフィリン多量体の励起エネルギー移行効率に対する水和環境の協働作用
Project/Area Number |
20K14427
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
熊谷 嘉晃 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60842739)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 励起エネルギー移行 / 励起電子・正孔緩和過程 / 水和作用 / 光アンテナ分子 / 人工光合成 / 時分割X線オージェ電子分光 / 液体分子線 |
Outline of Annual Research Achievements |
持続可能社会の実現へ向けて, 環境・エネルギー問題は人類にとって解決すべく喫緊の課題である. その解決策として, 光エネルギーを利用した人工光合成が第一に挙げられる. 金属ポルフィリン多量体は, 人工光合成デバイスの光アンテナ分子として高く期待されている. ポルフィリン環全体に広がったπ共役電子系に由来した環同志の相互作用が, 金属ポルフィリン多量体に高い励起エネルギー移行能を与える. 言い換えれば, 金属ポルフィリン多量体における励起エネルギー移行効率は, その分子構造にきわめて敏感である. 一方, 人工光合成デバイスにおける理想環境の一つとして水溶液が挙げられるが, 水和環境下では溶質・溶媒相互作用に由来した金属ポルフィリン化合物の分子構造および電子状態変化は小さくない. また, 金属ポルフィリン化合物の励起エネルギー移行過程に対して, 水和に伴う励起電子・正孔緩和過程の複雑化も大きく寄与すると予想される. 当該課題の最終目標は, 水和環境下にある金属ポルフィリン化合物を標的とした時分割オージェ電子分光を行い, 水和環境が励起エネルギー移行効率に与える協同作用を明らかにすることである. 当該研究期間では, 前年度までに改良を終えた液体分子線システムおよび光電子分光器を用いて, 液体の水を標的とした軟X線吸収スペクトルを測定し電子エネルギー選別器の電子エネルギー分解能の評価を行なった. また, 日本のX線自由電子レーザー施設SACLAにて, 気相分子を標的とした時分割クーロン爆発イメージング実験を実施し, 将来的な時分割オージェ電子分光実験に向けた改善点等を明らかにした. さらに、米国のX線自由電子レーザー施設LCLSにて, 液体の水を標的とした過渡軟X線吸収分光実験にリモート参加し, 液体試料を標的とした時分割計測法に関する知見を得た.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
次世代放射光施設ナノテラスの建設に伴い, 液体試料の光電子分光装置を整備していたSPring-8 BL23のエンドステーションから撤退せざる得なかった. そのため, 当該年度は放射光実験がほぼ行えなえず, 当初の目的である金属ポルフィリン多量体の光電子分光実験まで至らなかった. 当初の研究計画から鑑みると進捗状況は大きく遅れている. 一方, 前年度に記した今度の研究の推進方策に基づき, 水和金属ポルフィリンを標的とした電子衝撃実験を学内で整備している. (1) 電子エネルギー損失分光実験について; 入射電子のエネルギー単色化法および散乱電子のエネルギー分析法はほぼ整備された. また, 水和試料の導入へ向けた差動排気系も整備された. (2) 電子衝撃に伴う発光分光実験について; 水和試料を標的とした電子衝撃法による発光分光実験を実施し, 発光スペクトルの測定に成功した. (1), (2)より学内における電子衝撃実験を用いた実験手法の確立は大きく進捗した.
|
Strategy for Future Research Activity |
液体試料の光電子分光実験装置の整備は完了したと判断し, 同実験を実施可能な他の実験ステーションあるいは他の放射光施設を探索する. そして, 当初の目的である水和金属ポルフィリン多量体の光電子分光実験を目指す. また, 液体の水のみならず水和試料を標的とした過渡軟X線吸収分光実験の実施を目指す. さらに, 気相分子を標的とした時分割クーロン爆発イメージングを引き続き行い時分割計測に関する知見を蓄積していく. 学内で整備を進めている電子エネルギー損失分光装置に適した液体分子線システムの確立を目指す. 具体的には, 厚さ3マイクロメートル程度のフラットジェット方式の導入を目指す. また, 水和金属ポルフィリンに対する電子衝撃に伴う発光分光実験を行い, 水溶液中における金属ポルフィリンの緩和過程に対する知見の取得を目指す.
|
Causes of Carryover |
消耗品を購入予定であったが, 手続きが間に合わず翌年度予算として請求することにした. 当該年度では, 消耗品費として使用する計画である.
|
Research Products
(6 results)
-
-
-
-
-
-
[Presentation] 溶液中分子における放射線効果理解を目指したイオン質量分析法2022
Author(s)
熊谷嘉晃, 土屋貴寛, 宮後海帆, 寺尾優作, 鈴木一世, 金井唯, 黒瀬研二, 鵜飼正敏, 横谷明徳, 藤井健太郎, 福田義博, 斎藤祐児
Organizer
日本物理学会第77回年次大会