2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K14436
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大山 倫弘 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員 (00807034)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ガラス物理 / 限界安定性 / せん断 / 非平衡定常系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では外場により強い非平衡状態に駆動されたガラス系が示す性質を普遍的な枠組みで理解することを目的としている.「普遍的な枠組み」として,ここでは特に近年ガラスの本質的かつ普遍的性質として注目されている限界安定性に依拠した理解を目指す.限界安定性は熱的なゆらぎのみで駆動される系について近年盛んに議論されているが,外場により駆動された系の性質についての研究はこれまでほとんどなされていない. 本年度は限界安定性のうち特にGardner転移と呼ばれる現象に関連した性質についての検討を行った.Gardner転移は無限次元の平均場模型でその存在が予言され,三次元系の数値計算でもその存在が確認された.しかし,三次元系におけるGardner転移はこれまで極端な性質を持つHard sphere系でのみ確認されており,より現実的な数理模型であるLennard-Jones系などでは有限次元系ではGardner相(Gardner転移後に観察される特別なガラス相)は実現し得ないのではないかと考えられていた. 本研究ではせん断下で駆動されたガラスが示す塑性変形に注目し,それらの塑性変形イベント中に観察される平均二乗変位の統計量の測定を行った.特に,せん断を印加しはじめて最初に観察される塑性変形イベントと定常状態で観察される塑性変形イベントそれぞれの特性の比較も行った.前者は通常の外場なしのガラスの性質を反映していると期待され,後者はせん断の効果で強く非平衡状態に駆動された系の性質を反映していると期待できる.結果,前者はGardner相で期待されるような臨界性は示さなかったが,後者はGardner相と定性的によく似た臨界的挙動を示すことを明らかにした.外場の効果が存在しないときには臨界性が現れないという結果は,Gardner転移の存在を否定している先行研究の結果と整合している.一方,せんdなにより誘起される降伏臨界現象がGardner相とよく似た性質を示すという知見は本研究で新規に獲得した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予算申請書上で初年度の目標としていた研究成果を得ることに成功したため上記評価とする.
当該成果の一部は投稿済み,一部は投稿準備中であるが,近日中に投稿できる見込みである.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は予算申請書記載の通り,限界安定性の異なる側面についての検討を行う. つまり,せん断を印加したガラス系において振動状態密度の低周波領域での振る舞いを観察する.予備的な検討ではせん断の印加に伴い振動状態密度の低周波極限に現れるいわゆるnon-Debye scalingが示す非自明な冪指数の値が平均場の予測に近い値に変化するようすが観察されている.これは本年度得られた知見とも整合する振る舞いといえる.今後は大規模な数値計算の実行によりこうした知見を確たるものにする.
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行により予定していた出張が相次いでキャンセルとなったため. スーパーコンピューテョングシステムの使用料などに使用する予定である.
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