2020 Fiscal Year Research-status Report
散乱観測量を用いたアルファクラスター構造の直接的・網羅的研究
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20K14475
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
吉田 数貴 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 博士研究員 (00825937)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アルファノックアウト反応 / アルファクラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでカルシウム以下の軽い原子核についてはアルファクラスター状態がよく研究され、理解されてきた。本年度では、より重い48Tiにおけるアルファ+44Caクラスター状態について研究を行い、反対称化分子動力学による構造理論計算と歪曲波インパルス近似による反応理論を組み合わせることで、アルファノックアウト反応断面積を理論的に計算した。この原子核は、単により重いだけでなく、アルファ粒子を形成する核子がはじめてpf殻に入る領域である点でも面白い。結果、理論計算を実験データと比較することにより、軽い原子核では定量的に再現できていたノックアウト断面積が、48Tiからのアルファノックアウト反応については再現できないことを明らかにした。これは、既存の構造理論が予言する48Ti中のアルファ+44Caクラスター状態の振幅が現実と比較して有意に不足していることを示しており、現在の構造理論には取り入れられていない、アルファクラスターを形成する未知の機構が存在することを示唆している。この成果は Physical Review C 103, L031305 (2021) に纏められている。 また、さらに重い錫同位体でのアルファ粒子形成についてもアルファノックアウト実験が行われ、すでに理論的に予言されていたアルファ粒子密度を用いたノックアウト反応断面積の理論計算との比較を行った。その結果、錫同位体の表面にもアルファクラスターが形成されていること、また錫同位体で中性子数が増えるごとにアルファ粒子形成率は減少することを見出した。この成果により初めて中重核でのアルファ粒子形成が確認され、また中性子スキン厚や原子核の状態方程式についても新たな示唆を与えた。この成果は Science 371, 260 (2021) に出版されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、これまでよく研究が行われてきた軽い原子核の領域を超えて、より重い原子核領域でのアルファ粒子形成についての理解がアルファノックアウト反応を通じて深まってきている。また、本年度の研究成果によると、重い原子核領域では既存の構造理論による予言よりも現実には非常に大きいクラスター形成率が実現されており、これまでに理解されていないクラスター形成の機構が存在することを示唆している。この結果は、新たな研究や理解を創発する重要な結果であると言える。 また、錫同位体のような中重核でのアルファ粒子形成についてはこれまで全く理解されておらず、その存在を確かめることは非常に挑戦的な課題であったが、実験データは理論計算により良く再現され、本年度の研究成果の一つとして纏まった。 以上から、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果から、重い原子核領域でもアルファクラスターが形成されていることが理解できた。その一方で、その形成率を定量的に再現・理解することはまだ達成されていない。構造理論・反応理論の両面の改善を行い、実験データとの比較を行いながら、定量的再現に向けて何が不足しているのかを探る。その先に新たなクラスター形成機構が明らかになるかもしれない。 また、Tiからのアルファノックアウトの延長として、すでに実験データが存在する鉄や亜鉛からのアルファノックアウト反応への着手、また、錫以外の中重核やより挑戦的ではあるがアルファ崩壊核からのノックアウト反応に取り組み、アルファクラスター形成の普遍性についての調査を推進する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、ワークステーション等の計算機資源の購入を予定していたが、本年度は所属機関内で所有する計算機資源で対応できたため、購入時期を系統的な計算を行うために計算機資源が必要となる次年度に変更したことや本年度に参加した研究会や共同研究の打合せが新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、全てオンライン形式で開催されたことから当初計画に比べて、支出額が少なかったことにより、次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、次年度分経費と合わせて、計算機資源の購入費用や国際会議等の研究会への参加費用として使用する。
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Research Products
(5 results)