2020 Fiscal Year Research-status Report
新奇手法による中性子過剰核の構造研究:”逆転の島”境界原子核の完全理解に向けて
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20K14492
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西畑 洸希 九州大学, 理学研究院, 助教 (00782004)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 不安定原子核 |
Outline of Annual Research Achievements |
中性子数と陽子数のバランスが崩れた不安定原子核について安定核付近の原子核と比べてどう構造が異なるのか、ということは原子核物理学における重要課題のうちの一つとなっている。特に、中性子数20付近の中性子過剰原子核において、安定核とは異なる構造が実験的に示唆され注目を集めている。しかしながら、実験データはいまだ十分とは言えず、特に原子核構造を議論する上で欠かすことができないスピンの情報が不足しており、詳細な構造の議論が進んでいない。そのため本研究では、スピン偏極した31Mg、33Mgのベータ崩壊を用いた独自の手法を用いて、データが不足している31Al、33Al の励起状態について詳細なデータを取得し、中性子過剰な原子核構造について新たな知見を得ることを目指す。 今年度は、TRIUMF研究所の偏極ビームラインにて行ったスピン偏極31Mgビームについての生成実験のデータ解析を行った。ベータ線の空間的非対称度とガンマ線の同時測定の解析を行い、娘核である31Alの7つの励起状態についてスピンを決定することができた。加えて、ガンマ線同士のコインシデンス関係の解析により、新たな状態を8つ発見した。 上記の解析により31Mgの偏極度も得られ、およそ3%程度であることがわかった。この結果は予定していた偏極度に比べおよそ1/10と非常に小さな偏極度であった。実験データの検討の結果、ビーム輸送中の1価から2価のイオンへの電離過程にあることがわかった。特に収量が少ないと予想される33Mgには不十分であるため、来年度に偏極度の向上および測定システムの高効率化を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スピン偏極31Mgビームを用いた実験データの解析が進み、31Alの7つの励起状態のスピンを新たに決定したとともに、ガンマ線同時計測の解析から新たな励起状態・ガンマ遷移を多数発見することができた。加えて、Mgビームを偏極・輸送させる際の1価から2価のイオンへの電離過程が減偏極を引き起こす問題点も明らかにした。そのため、計画は概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では中性子検出器の開発・改良を優先的に進める予定であった。しかし、Mgビームの偏極度が当初の予定より小さかったことを踏まえ、予定している33Mgのスピン決定実験に向けて、来年度に偏極度の向上および特に構造研究で重要なガンマ線測定システムの高効率化を優先して行うことにする。偏極度の向上に向けて測定システムの中心に配置している永久磁石の設計の変更やそれらのサポートフレームの再設計が必要となるため、それらを本年度進めていく。測定システムの改良も同時並行で行う。具体的には、データ収集システムの効率化のために、新たなデータ収集系システム・オンライン解析ソフトの開発、ガンマ線検出効率向上のためにガンマ線測定に用いているゲルマニウム検出器の配置の最適化も行っていく。 以上に加えて、既に取得してある偏極31Mgを用いた実験のさらなる解析も進めていく。得られたガンマ線スペクトルの比較的強度の小さいピークについては未だ十分な解析を行えていないため、その解析を進める。さらに、得られた31Alの準位構造と理論計算の比較も進め、31Alの構造を調べる。その後、得られた結果について投稿論文としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、COVID-19により海外への渡航が制限されるという状況下の中で、本実験を行う予定であるカナダへ渡航することができなかった。それに加えて、偏極31Mgビームの解析の結果、予定より偏極度が小さかったため計画の変更などが生じたため、次年度使用額が生じた。 次年度は、偏極度改善に必要な永久磁石の製作やそれのサポートフレームおよびゲルマニウム検出器のサポートフレームを購入する予定である。加えて、データ収集系の改善に必要な電子回路なども必要に応じて購入する。
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