2022 Fiscal Year Research-status Report
未知のCP対称性の破れ探索のための、中性子偏極デバイスの開発
Project/Area Number |
20K14495
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
奥平 琢也 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (40826129)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 偏極中性子ビーム / 離散的対称性の破れ / 複合核反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は原子核の偏極中性子反応で対称性の破れが増幅される現象を研究するために、熱外中性子を偏極するデバイスを開発することが目的である。本研究では中性子を偏極するために核偏極3Heガスを利用したデバイス : 3Heスピンフィルタを開発した。本装置は偏極3He原子核を得るためにレーザー偏極手法であるスピン交換光ポンピング法を用いている。 3Heスピンフィルタを実験に使用するためには、3Heガスセルに大強度レーザーを照射し、中性子ビームラインに持ち込む必要があることから、多数のビームラインが建築されているJ-PARC 物質生命科学実験施設内に大強度レーザーシステムを構築した。本装置を用いて3Heスピンフィルタを偏極したところ3He偏極率は80%程度の良い偏極率を達成できることがわかった。本装置を用いると、1eVの中性子に対して40%程度の偏極率を得られる。 実際に、3Heスピンフィルタを中性子ビームラインに導入し、空間反転対称性の破れが大きく増幅されている117Snの偏極中性子吸収反応に伴うガンマ線を測定したところ、有意な角度分布が存在することを発見した。また、同じく空間反転対称性の破れが増幅されている139Laを静的核偏極法を用いて偏極し、3Heスピンフィルタとともに中性子ビームラインに導入した。この結果、世界で初めてp波共鳴において、スピン依存する中性子吸収断面積を測定することに成功した。 これらに加えて、より中性子を効率よく偏極するために大型の3Heスピンフィルタの開発に着手した。テストとして複数のガラスセルを作成し性能が良い小型のガラスセルを複数個作成することに成功したが、歩留まりがあまり良くなく、熱外中性子用の大型ガラスセルの作製にはまだ至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3Heスピンフィルタのガスセルおよび、レーザーシステムを新たに開発し、それらを中性子ビームラインに実際に導入することで、1eV程度の熱外中性子を40%程度の偏極率で偏極させることに成功した。本装置を使用して、世界で初めての複数の物理成果を得ることに成功した。このことから、物理成果を得るという観点からは当初の計画以上に研究は進んでいると言える。しかし、より高偏極を得るための大型ガラスセルの開発に関してはいくつか着手すべき作業が残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
3Heスピンフィルタを用いることでさまざまな物理成果を得ることに成功したことから、デバイスの性能を向上させることにより、さらなる研究成果がさまざまなビームラインで得られることが示唆される。そのためにより使用しやすい3Heスピンフィルタの開発を行い、多様な研究領域に本デバイスを発展させていく。また、より効率よく熱外中性子を偏極するために、ガス圧の向上を検討しつつ、大型のガラスセルの開発を継続する。
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Causes of Carryover |
ビームタイムが次年度に延期されたことにより旅費代および試料購入代が次年度使用額として生じている。次年度に主に旅費、試料購入代として使用予定である。
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[Presentation] J-PARCにおけるミューオニックヘリウム超微細構造精密測定及びミューオニックヘリウム偏極用SEOP装置の開発状況2022
Author(s)
福村省三, PatrickStrasser, 猪野隆, 奥隆之, 奥平琢也, 神田聡太郎, 北口雅暁, 清水裕彦, 下村浩一郎, 鳥居寛之, 西村昇一郎,
Organizer
日本物理学会