2020 Fiscal Year Research-status Report
低エネルギー宇宙線反陽子の高感度観測による太陽変調研究
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20K14505
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
小財 正義 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (60781739)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リチウムドリフト型シリコン検出器 / 自励振動ヒートパイプ / 銀河宇宙線 / 反陽子 / 太陽変調 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球近傍や惑星間空間は太陽の勢力範囲「太陽圏」の支配下にある。地球で観測された銀河宇宙線は太陽圏磁場の影響(太陽変調)を受けているため、太陽圏の貴重なプローブとなる。中でも反陽子は近年の技術進歩により急速に研究が進んでおり、注目されている。 GAPS (General Antiparticle Spectrometer)は次世代型の宇宙線反粒子観測実験である。エキゾチック原子を利用した先進的観測技術により、従来困難であった低エネルギー反粒子の超高感度観測を実現する。本研究では、その核心をなすシリコン検出器アレイを中心として開発を進め、低エネルギー反陽子による太陽変調研究を実施する。今年度はシリコン検出器の量産データの解析と、検出器冷却システムの開発を行った。 GAPS用シリコン検出器は、大口径・厚い有感層・比較的高い動作温度などの特長を併せ持つ新型検出器である。第一回フライトへ向け、大口径のリチウムドリフト型シリコン検出器としては例のない大量製造が実施された。蓄積されたデータには、新たな知見や性能向上のヒントが隠れていると期待される。また検出器運用のためにも、個体差などの詳細な特性を把握しておく必要がある。今年度は多様な量産データを収集してデータベース化し、性能分布の解析やデータマイニングを実施した。製造パラメータと性能との関連などが見えつつあり、国内学会で報告した。 検出器の冷却には、新型ヒートパイプの導入を目指している。2相流体の沸騰・凝縮により駆動力を得る低電力かつ軽量なヒートパイプである。その利用により検出器などへ割けるリソースを最大化することができる。新型ヒートパイプの運用には、作動流体の物理状態を監視し沸騰制御などを行う新たな運用システムが必要である。今年度は各要素技術や装置を開発し、ヒートパイプから地上運用コンピュータまでのEnd-to-End試験に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
検出器冷却システムの開発は凡そ順調に進捗し、システム構成やFPGAロジック、回路基板、ソフトウェアなどの基本設計を完了することができた。模擬検出器を用いたEnd-to-End試験も成功させることができた。 GAPSプロトタイプ機による地上での機能性能実証試験(GAPS Functional Prototype; GFP)を2021年度に実施する予定であり、準備を進めている。GFP用の検出器冷却システムを構築し、実施場所である米国MITへ計画通り輸送した。コロナ禍の影響により米国への出張が困難なため、TV会議などで現地協力者と緊密に連携を取りながらインテグレーションを進めている。 計画以上の進展として、シリコン検出器量産データの詳細な解析を実施した。性能データだけでなく、メーカーの協力を得て製造データもデータベース化し、データマイニング手法によりそれらの関連性を探索した。ドリフト過程の性能への影響などが知見として得られつつあり、国内学会で報告したほか、2021年度の国際会議や学術誌論文での発表を目指し結果を整理している。 さらにフライト実施後の研究を見据え、GAPSによる太陽変調研究についてより具体的な検討を進めた。これまでの地上観測データや人工衛星データを解析し、宇宙線反陽子ではこれまで観測が困難であった宇宙嵐現象などについても、GAPSの高統計観測を用いれば捉えられる可能性があることを見出した。 一方で、コロナ禍の影響によりNASAの気球実験キャンペーンが延期され、GAPSのフライト予定が最も早くて2022年末となった(これまでの予定は2021年末)。検出器冷却システムの開発でも、一部の熱的特性の測定や、補助ポンプの駆動試験などの課題が残されている。これらの状況を勘案し、「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
シリコン検出器の量産データ解析の結果をまとめ、学術誌論文などとして発表する。また、引き続きGFPのインテグレーションを進め、宇宙線ミューオンや放射線源を用いた総合試験を成功させる。ヒートパイプ用補助ポンプの駆動試験など、一部残されている開発課題や動作試験を遂行する。 以上で得た知見をフィードバックさせつつ、フライト実機に即した検出器冷却システムの開発・構築を進める。特に、FPGAなどのアルゴリズムの高度化により、自動制御を含むインテリジェントな冷却システムを開発する。 フライト実施に先立ち、宇宙線反陽子による太陽変調研究のより具体的かつ発展的な検討を進める。太陽変調モデルによる数値計算のほか、地上宇宙線観測や地磁気・大気データの調査を進める。太陽変調現象、特に宇宙嵐などの擾乱現象を地上と飛翔体の両宇宙線実験で同時観測し統合的に解析した例は少ない。南極昭和基地に近年導入されたミューオン・中性子計などと、南極周回気球によるGAPS実験で擾乱現象を同時観測できれば、大きなインパクトがある。そのような発展的研究を見据え、地上宇宙線観測や極域関連のデータから具体的な研究アプローチを検討する。 2022年よりGAPSペイロードの構築を進め、2022年末に予定されている南極での観測フライトを成功させる。観測データ解析により、上記の研究を含む太陽変調研究を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響もあり、国際会議や国内学会、コラボレーションミーティングなどでオンライン参加のシステムが整備された。それらを利用し、旅費などを大幅に節減することができた。 次年度は、データ解析の成果がまとまりつつあることや、学会等のオンライン化によりスケジュール調整が容易となった機会をとらえ、国際会議などへ活発に参加する。GAPS実験のフライト予定延期により得た準備期間も有効に活用し、検出器冷却システムの開発をより着実かつ発展的なものとする。これらの活動に次年度使用額も含めた助成金を使用する。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] Mass production of large-area lithium-drifted silicon detectors for the GAPS silicon tracker2021
Author(s)
M. Kozai, S. Tokunaga, H. Fuke, T. Erjavec, C.J. Hailey, C. Kato, N. Madden, K. Munakata, K. Perez, F. Rogers, N. Saffold, Y. Shimizu, M. Xiao
Organizer
TIPP2021
Int'l Joint Research
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