2020 Fiscal Year Research-status Report
Revealing chemical reactions in high-mass star-forming regions with observations, laboratory experiments, and chemical network simulations
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20K14523
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
谷口 琴美 学習院大学, 理学部, 助教 (40865549)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 星間化学 / 星形成 / 電波天文観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
太陽より8倍以上の質量を持つ若い星である大質量原始星周辺の化学組成を調べるため、チリにあるALMA望遠鏡や国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡などを用いた観測を行った。ALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いて、大質量原始星周辺の有機分子の化学組成と空間分布を調べた。このデータから大質量の若い星の連星系を発見し、物理的進化段階の違いと化学組成の関係について明らかにした。 ALMAのペルセウス領域にある中小質量原始星周辺のHC3NとCH3OHのアーカイブデータを用いて、化学反応ネットワークのモデル計算との比較を行い、化学組成と温度の関係について調べた。モデル計算と観測結果に整合性がみられ、今後、大質量星と比較するために利用する。 野辺山45m望遠鏡を用いた観測から、大質量原始星周辺に存在する直鎖炭素鎖分子が存在する温度領域を推定する観測を行った。CCHとHC5Nという2種類の炭素鎖分子の存在量比を温度のトレーサーとして、観測結果とモデル計算の比較を行ったところ、大質量原始星周辺の炭素鎖分子は温度が85 K程度の領域に存在することが示された。これは太陽と同程度の質量を持つ星である低質量原始星周辺に存在する炭素鎖分子の存在する温度領域 (35 K)より有意に高いことが示された。これらの結果から、大質量原始星周辺の炭素鎖分子の化学は低質量原始星周辺とは異なること、及び大質量原始星周辺の化学的多様性を示した。 室内実験では、学習院大学理学部物理学科に設置されたフーリエ変換赤外分光計を用いてCOとH2O/H2及びN2とH2Oの光化学反応実験を行った。前者の実験からCOの水素付加反応を確認することができたが、後者の実験で期待される生成物のアンモニア(NH3)が装置特性の都合上検出を確認できないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
観測については、化学反応ネットワークシミュレーションと組み合わせることにより、理論的解釈を加えることができ、当該年度に学術論文3本が出版することができた。 一方、室内実験に関しては、新型コロナウィルスの影響による実験の制限や、実験装置の感度不足や装置特性により、目的としていた実験ができないことが判明した。そのため、これ以上の進展が期待できない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
室内実験に関しては、これ以上の進展が望めないこと、及び申請者の異動により実験を続けることは難しいため、今後は観測と化学反応ネットワークシミュレーションを中心とした研究手法に集中して取り組む。 具体的には、ALMA望遠鏡の高空間分解能のデータを用いて、大質量原始星周辺の化学組成について詳細に調べ、化学反応ネットワークシミュレーションの結果と比較することで、理論的な解釈を行う。また、大質量原始星周辺の化学的多様性の起源を調べるため、手掛かりになりうる分子の重水素濃縮度を調べる。重水素濃縮度は、星が生まれる前の温度や密度などの物理環境を調べる良い指標となることが示唆されており、低質量原始星の化学的多様性の説明に使われていた。しかし、大質量原始星周辺については、そのような先行研究はないため、観測提案を進めている段階である。同時に、ALMAのアーカイブデータに目的の分子が入ったデータがないか、探している。重水素化物を含めた化学反応ネットワークシミュレーションに新しく取り組む。これにより、どの分子が良いトレーサーとなり得るかを調べ、今後の観測提案に活かしていく。
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Causes of Carryover |
当初予定していた実験装置の改良の費用が、新しい紫外線照射用のランプを購入したことで不要になり、物品費に残額が生じた。新型コロナウィルスの影響で、全ての学会がオンラインでの開催になったことにより、旅費が不要となり、残額が発生している。論文の英文校閲などで謝金を使用する予定だったが、海外の共同研究者と研究を進めたことにより、不要となった。 今年度は、新型コロナウィルスの状況にもよるが、海外の共同研究者のところに短期間滞在して研究を進めることを計画しており、繰越分を使用する予定である。
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Research Products
(15 results)