2021 Fiscal Year Research-status Report
Study of an impact of X-ray emisstion from the active galactic nucleus on star-formation history
Project/Area Number |
20K14529
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
川室 太希 国立天文台, ハワイ観測所, 特別客員研究員 (60867935)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超巨大ブラックホール / 活動銀河核 / 銀河 / X 線観測 / ミリ波・サブミリ波観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河のバルジと呼ばれる楕円体状に分布した星団の性質 (質量や速度分散) と銀河中心にある超巨大ブラックホール (super-massive black hole; SMBH) の質量には、良い相関があることが知られている。この観測事実から、銀河 と SMBH の形成・成長には密接なリンクがある、もしくは両者は共進化してきたと考えられている。この共進化の理解には、活動銀河核が重要である。活動銀河核とは、観測的には、銀河の中心が銀河全体と比較して極めて明るい状態のことを指し、SMBH に物質が降着し、莫大なエネルギーを開放しているためであると考えられている。そして、活動銀河核で開放される降着物質のエネルギーは、銀河の性質に影響を及ぼすのに十分であることがわかっている。つまり、活動銀河核を研究するということは、SMBH の成長と母銀河に対する影響を理解することにつながる。 活動銀河核が、銀河に影響を及ぼすパスには様々なものが考えられるが、その一つに、星間物質の X 線放射が考えられる。X 線は、活動銀河核では普遍的に出ており、星形成の源である星間物質を加熱や電離したり、その性質を変える能力があることが理論的に示唆されている。しかし、実際の影響について観測的にあまり議論されてこなかった。その要因の一つとして、星間物質の主要成分である分子ガスからの放射を高い分解能でかつ、有意に検出することが困難であったからである。しかし、サブミリ・ミリ波干渉計 ALMA の運用によってその状況は変わり、ようやく容易に議論することが可能になり、今がまさに研究をすべき時期となってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
活動銀河核からの X 線放射が周囲の星間物質に与える影響を観測的に研究するために、X 線望遠鏡 Chandra で観測されているかつ、ALMA で一酸化炭素の回転遷移輝線 CO(J=2-1) が 1 秒角以内で観測されている 26 天体に着目した。Chandra は、X 線で一番高い空間分解能を達成し、活動銀河核からの X 線に照射されている領域を細かく分解できる。ALMA は、Chandra と同等の分解能で、その高い感度により詳細に CO の空間分布を明らかにできる。結果、X 線照射領域での分子ガスの影響について議論ができる。 まず Chandra で分離できるほど広がった (>~ 600 光年) 6.4 keV の鉄輝線を探査した。6 天体で、広がった鉄輝線を検出し、そららの等価幅が、AGN からの X 線放射が鉄を電離することで出る、蛍光 X 線の予測と一致することがわかった。さらに、高い有意度で検出された 2 天体で、鉄と CO 輝線の分布が分離していることがわかった。つまり、AGN からの X 線が星間物質の状態を変化させている可能性があることがわかった。 加えて、Chandra では分離できないような領域 (<~ 600 光年) でも、興味深い示唆を得た。観測的には、3 つのことがわかった。(1) SMBH 近傍からの X 線光度と CO 輝線の強度には正の相関がある。(2) HCN(J=1-0)/CO(J=2-1) の比が、X 線光度が高いほど小さくなる。ここで、HCN(J=1-0) は、密度の濃いガスから出る。(3) 鉄輝線と連続 X 線放射の光度の比が、X 線光度が明るくなるほど小さくなる。これらは、AGN への質量降着によって X 線光度が上がる一方で、その放射によって周りのガス密度が放出流によって小さくなっていくことで説明できることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記で用いた Chandra と ALMA のデータから、予期せぬ結果として、SMBH 近傍からの X 線放射とミリ波の連続波の光度には強い相関関係がある可能性が見えてきた。そこで、着目した 26 天体のデータだけでなく、ALMA で連続波が高い分解能でとられている天体をさらに加えることで、約 100 天体からなるサンプルを構築し、光度の相関関係について調べる。この研究は、申請課題で解明したい謎、つまり、銀河と SMBH の共進化に密接に関わる。もし、予定の大きなサンプルで、光度の相関が確かめられた場合には、その回帰直線を用いてミリ波観測から活動銀河核の光度、つまり降着率を推定することが可能になる。ミリ波は、X 線よりも高い透過能力をもっていることを考えれば、これまで X 線では見落とされていたような厚いダスト・ガスの層に隠されていた活動銀河核を見つけ、さらには、その降着率を推定できることを意味する。共進化のプロセスの中では、そのような隠された活動銀河核で、急速に SMBH が成長すると考えられているので、それらを含めた上で、SMBH 成長の議論が進むことが期待される。
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Causes of Carryover |
当初予定より効果的な物品調達が可能となったため次年度使用額が生じた。 次年度は、論文を2本出版する予定であり、その出版費用がかかると考えられる。また、COVID-19 の状況を考慮しつつも、出版予定の論文の発表や、さらなる議論のための出張に使用する予定である。他に、共用データサーバに存在する大量のデータを、ローカルのパソコンに移すための設備増強も予定している。
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Research Products
(16 results)