2020 Fiscal Year Research-status Report
Unraveling the Formation of the Milky Way by cosmological simulations and Gaia
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20K14532
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
平居 悠 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (60824232)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 天の川銀河 / 銀河考古学 / 矮小銀河 / rプロセス / 天の川銀河ハロー / 金属欠乏星 / 銀河形成 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄より重い元素である金、プラチナ、ユーロピウムなどは、rプロセスと呼ばれる元素合成過程で合成される。天の川銀河においては、これらの元素と鉄の比が太陽組成の10倍以上ある星が5%程度あることが知られている。しかし、これらの星と銀河形成との関係は未だ明らかになっていない。 本年度は、ユーロピウムなどのrプロセス元素に富んだ星の動力学的性質と形成環境についての研究を実施した。そのために、天の川銀河の構成要素となった矮小銀河まで分解できる天の川銀河形成シミュレーションを行った。シミュレーションには重力・流体計算コードASURA (Saitoh et al. 2008)を用いた。計算資源は、国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのCray XC50を利用した。 シミュレーションで形成されたrプロセス元素に富んだ星の軌道を解析すると、rプロセス元素に富んだ星の多くは、太陽系が存在するような銀河円盤とは異なる軌道を持っていた。これらの星は、100 億年以上前の天の川銀河誕生まもない頃、成長途上の矮小銀河で形成される傾向にあった。さらに、一部の星はIa型超新星爆発の影響を受け、低いマグネシウム/鉄比を有していた。 本研究により、rプロセス元素を多く持つ星は天の川銀河形成初期に天の川銀河の構成要素となった矮小銀河で形成されたものが多い可能性が示唆された。最近、位置天文衛星Gaiaのデータが公開され、星の動力学的な情報が得られるようになった。これらのデータと本研究で行ったシミュレーションを比較することにより、宇宙初期の天の川銀河形成を再構築できるようになることが期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度行う予定であったrプロセス元素に富んだ星の起源に関する研究を実施することができた。計画通り異なる3つの天の川銀河サイズのハローについて宇宙論的ズームインシミュレーションを行った。これにより、天の川銀河でのrプロセス元素に富んだ星についての形成環境を探ることができるようになった。本研究により、天の川銀河にみられるrプロセス元素に富んだ星の多くは、天の川銀河形成初期に形成され、現在は天の川銀河の一部になっている矮小銀河で形成されたことが示唆された。現在シミュレーションデータを解析中であり、位置天文観測衛星Gaiaデータとの比較を進めている。本研究については、2021年度に論文を投稿できる見込みである。 また、本年度は、2022年度以降に実施予定の個々の星を分解したシミュレーションで用いる星形成モデルの開発も行った。これまでの銀河形成シミュレーションでは、1つの星粒子は複数の星の集まりとして扱っていたが、本モデルでは、1つの星粒子を個々の星として扱う。本研究では、開発した星形成モデルを適用した分子雲からの星団形成シミュレーション及び超低光度矮小銀河の宇宙論的ズームインシミュレーションを実施した。その結果、星形成の際に周囲のガスから質量を集める範囲を星形成密度閾値から見積もられる値より広く設定することにより、形成される星の初期質量関数を正しく再現できることが明らかになった。さらに、星団で形成される最大の星質量と星団質量の関係を再現することができた。本研究はPublications of the Astronomical Society of Japan誌に受理されており、2021年度に出版される見込みである。以上のように、計画通りの研究成果が得られつつあり、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度実施したシミュレーションのデータ解析及び、異なる初期条件、パラメータでのシミュレーションを実施する。これらの結果と、既に公開されている位置天文衛星Gaia EDR3のデータと比較することにより、rプロセス元素に富んだ星の形成環境を明らかにする。 さらに、上記のデータを用いて銀河系の厚い円盤と薄い円盤の関係を明らかにし、銀河系円盤の形成進化史を解明することを目指す。α元素は重力崩壊型超新星爆発により、典型的に数百万年の時間スケールで放出されるのに対し、rプロセス元素は連星中性子星合体により典型的には1億年の時間スケールで放出される。これらの元素の放出時間スケールの違いが銀河円盤の元素分布に及ぼす影響を明らかにすることで、rプロセス元素を銀河進化史の指標として位置付ける。Gaiaデータから星の動径方向、回転方向の速度、AMBREプロジェクトからα元素組成、rプロセス元素組成を抽出し、シミュレーションと比較する。これに加えて、連星中性子星合体の頻度・元素合成量、矮小銀河の衝突合体のタイミングなどのパラメータ依存性を調べるため、孤立した銀河系円盤モデルのシミュレーションを行う。 2022年度以降は、銀河系への矮小銀河降着史の解明を目指す。本年度開発したコードを用いて、個々の星までを分解した銀河系形成シミュレーションを実施する。2022年度は、赤方偏移3まで計算した結果に基づき、銀河系に降着した矮小銀河の星形成史、元素組成を解析する。2023年度は、赤方偏移0まで計算を進め、降着した矮小銀河由来の星が持つrプロセス元素組成と角運動量・軌道運動エネルギーを高分散分光観測・Gaiaデータによる角運動量と比較する。これにより、銀河系ハローの矮小銀河降着史を明らかにし、銀河系ハローの構成要素と現在の矮小銀河の関係を解明する。
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Research Products
(6 results)