2020 Fiscal Year Research-status Report
はやぶさ2画像データをつかった、現在・過去の自転状態の解析と表層進化の解明
Project/Area Number |
20K14538
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平田 直之 神戸大学, 理学研究科, 助教 (00791550)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 小惑星 / リュウグウ / はやぶさ2 |
Outline of Annual Research Achievements |
小惑星探査機はやぶさ2の画像データを解析し、リュウグウの自転状態およびその自転の変化によって生じる様々な表面現象についてその一端を明らかにする。小惑星は赤外線放射によって自転が暴走加速することがしられており、リュウグウは過去に自転周期が3時間を超えるほど早く自転していたらしい。リュウグウはそのような高速自転小惑星を詳細な画像データを使うことで解析ができる初めての例である。このリュウグウの現在の自転状態を解析し、さらにそのような高速自転がリュウグウの形状や表層進化にどのような影響を与えるのかを画像データの解析によって明らかにすることで、小惑星の軌道進化やそれによる太陽系初期の微惑星の集合や合体による惑星形成、地球への衝突過程などへの知見に発展させる。 その具体的取り組みとして①リュウグウの現在の自転状態を解析し、②自転の加速によってクレーターなどの地形や地質にどのような影響が出るかを調査している。①の課題についてはやぶさ2の観測期間中における、リュウグウの自転の微かな変化の有無について観測的に調査した。その結果、自転周期についてはまったくといっていいほど変化していないことを発見した。また自転軸方向の変化が微かに見られるものの観測上の有意水準を超えないことを発見した。これらの知見は今後のはやぶさ2観測結果の論文中にで反映させたいと考えている。②の課題について大きな進歩があり、自転が加速するとクレーター地形に東西不対称性が生じること、それらが起きうる条件は自転周期が3.5時間以上の場合に限ることを発見した。さらに、赤道上に青い色を帯びた領域があることがしられていたがこれも自転が加速した場合のエジェクタの分布で説明できることがわかった。これらの結果として合計2報の論文の受理に至った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
①リュウグウの現在の自転状態の解析に関する課題は完了した。その結果はやぶさ2の観測期間中においてリュウグウの自転には有意な変化がないことを検出した。 ②自転の加速によってクレーターなどの地形や地質にどのような影響が出るかの調査については大きな進展があった。リュウグウの赤道上にある衝突クレーターのリムには東西不対称性があることが分かっている。リュウグウの赤道にある大きなクレーターは東側よりも西側の方が微かに高い傾向がある。この原因としてコリオリ力が考えられた。そこで赤道上にあるクレーターの東西不対称性をLidarデータおよび形状モデルを使うことで解析し各クレーターの東西不対称性の程度を解析した。そしてリュウグウ周りの複雑な重力場とある自転周期を加味して、エジェクタ(衝突によって放出された物質)の軌道計算を数値計算することで、エジェクタの偏りの程度を理論的に求めた。その結果自転周期が3.5時間より早い時には観測された東西不対称性を作りうるが3.5時間より長いときは東西不対称性が生じえないことがわかった。このため東西不対称性を持つクレーターは自転が3.5時間より早い時期に形成された可能性が高くリュウグウの形成史を一つ明らかにした。またその過程で自転が速い場合はエジェクタが赤道に集中して堆積することもわかった。エジェクタの堆積によって、赤道上に青い色を帯びた領域があることがしられていたがこれも自転が加速した場合のエジェクタの分布で説明できることがわかった。これはリュウグウの赤道リッジ形成にもつなげることができる重要な知見である。これらの結果をまとめて国際学会誌に投稿し合計2報の論文の受理に至った。
|
Strategy for Future Research Activity |
自転周期が速い場合エジェクタの堆積が赤道に集中して生じるという発見はリュウグウのソロバン型の形状の形成メカニズムにも重要な示唆を与える。リュウグウに限らず地球近傍小惑星は赤道部分が突き出たソロバン型を持っているものが多いことがしられ、自転の暴走加速が関連していると考えられているものの実際どのように形成されるのかについてはよくわかっていない。そのなかにおいて、私たちの計算結果から自転が速い場合エジェクタが赤道に集積し続けることで赤道リッジが形成されていく可能性があることがわかった。従来考えられているマスムーブメント(極域から赤道域への地滑りのような現象)では鋭い赤道リッジが出来ないことが知られているが、このモデルではかなり鋭い赤道の膨らみを作ることができることもわかった。これらの知見は他のソロバン型小惑星にひろく一般的に適用できる。今後これらの解析をすすめ更なる論文の出版に繋げたいと考えている。 また今年度は手を付けられていなかった課題としてリュウグウの表面におけるHeaveと呼ばれる遅いマスムーブメントが挙げられる。これについての解析を今年度は進めたい。リュウグウの自転がはやくなると、遠心力ポテンシャルによって、赤道側がもっとも標高が低くなり逆に極域が標高が高くなる。逆に自転が遅くなると、赤道がもっとも標高が高くなり、極域が低くなる。そのため、リュウグウは自転が変化するたびにダイナミックに、高地や低地が入れ替わる。その中においてHeave(熱膨張によって、岩が膨らんだり縮んだりすることによって、少しずつ地面が低所にむかって流動する現象)によって、表面が流動している可能性が高い。現在は自転が遅くなっている時期なので、赤道が相対的に標高が高いために赤道から極域に向かう方向に流動しているはずであり、岩は極域にむかって傾いているはずである。それを検証したい。
|
Research Products
(2 results)