2020 Fiscal Year Research-status Report
深海乱流の励起・散逸を同時に再現可能な領域変形スペクトルモデルの開発
Project/Area Number |
20K14556
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大貫 陽平 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (70804201)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海洋物理学 / 数値流体力学 / 回転成層流体 / 乱流 / 非平衡統計力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画に沿い、成層流体を伝わる内部重力波の一部分を切り出して、時間周期的な流速シアの変動を受けてパラメトリック励起される乱流を再現する数値シミュレーションを実施した。その結果、従来の研究で対象とされてきた定常流シアの場合に比べて、振動流においては2倍以上も高いエネルギー効率で密度混合が引き起こされることを明らかにした。 さらに新たな試みとして、海洋表層のメソ・サブメソスケール擾乱のエネルギー論的な理解を促進することを目指し、変形領域における二次元流れを再現する数値モデルを作成した。このモデルでは、非粘性の二次元流れに特徴的な渦度保存則は通常通り成立する一方、境界における圧力仕事を通じて運動エネルギーが時間変化をする。平衡統計力学の観点では、二次元乱流は他の多くの系とは異なり負の温度状態となることが知られる。負温度状態では、熱力学第二法則が反転してミクロな乱流エネルギーがマクロな仕事へと不可逆的に変換されることになる。本研究ではこのことを、熱平衡状態にある系に加えられる仕事を規定するJarzynski等式に基づいて理論的に示し、シミュレーション結果との整合性を確かめた。以上の結果は、非平衡状態における地球流体乱流の統計的性質について新しい知見をもたらすものである。 その他、回転・成層効果を受けながら時間発展をする様々な乱流現象に対して広く適用可能なシミュレーション技術の開発を目指し、プログラミングコードの作成・整備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初想定していた、内部重力波のパラメトリック不安定に関するシミュレーション実験が完了し、国際共著論文を出版するに至った。さらに、研究の過程で地球流体乱流に関する新しい統計力学的法則を見出し、実験結果と整合する形でその理論的基礎を固めることができた。こちらの成果についても順調に出版準備が進んでいる。 なお、計画では令和2年度途中から本研究を一時中断して海外研究機関に長期滞在することを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、中断期間を一年間後ろにずらすことになった。いずれにせよ、計算機資源をはじめとした研究設備は支障なく利用できているため、本研究の遂行に大きな影響はない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度途中から本研究を一時中断し、フランスの研究機関に長期滞在をする。現地では、大型水槽を用いた回転成層流体の実験グループと協力して研究を展開する。その中で、本研究で開発を進めるシミュレーションの結果と、水槽実験の結果を比較して、シミュレーションの妥当性や実験との相違点について検討を行う。 帰国後は、水平方向のストレインを組み込んだ成層流体のシミュレーションを実施し、楕円不安定やKelvin-Helmholtz不安定に伴って引き起こされる乱流混合のエネルギー効率について分析を行う予定である。
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