2020 Fiscal Year Research-status Report
DNA構造体による高分子潤滑添加剤のモデル化と摩擦特性に及ぼす分子構造の影響解明
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20K14640
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山下 直輝 京都大学, 工学研究科, 特定研究員 (50847746)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トライボロジー / DNA / 原子間力顕微鏡 / 高分子添加剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
自動車などの機械部品の摩擦摺動部において良好な潤滑状態を構築するために,高分子潤滑添加剤の利用が注目されている.高分子添加剤は,潤滑油の粘度調整のみでなく,材料表面に吸着することによって低摩擦・低摩耗性能を発揮する.しかし,「高分子添加剤の構造」が金属表面への吸着特性や摩擦特性に及ぼす影響に関しては未解明である.そのため,今後も幅広い利用が予想される高分子添加剤の設計指針を築くためには詳細な検証が必要である.本研究では,高分子添加剤のモデルとして直鎖型や分岐型などの様々な構造体が容易に形成可能であるDNAを利用して,高分子添加剤の構造が摩擦特性と吸着特性に及ぼす影響を明らかにするとともに,効果的な高分子添加剤の開発や使用環境に応じた高分子添加剤の選定基準を提示することを目的とする. 2020年度は,直鎖構造や分岐構造をもつ高分子添加剤のモデルとして扱うDNA高分子添加剤を作製するためのDNAの塩基配列を設計した.次に,相補結合が効率よく生じ,収率を高めるための作製条件(アニーリング温度や速度,イオン濃度など)を調整した.条件を調整しながら作製した高分子添加剤モデルのDNAは,その都度原子間力顕微鏡で形状を確認することによって,作製条件の最適化を図った.直鎖状のDNA構造と,分岐を持ち枝の数が3,4,5,6または8個持つDNA高分子添加剤を設計し,これらのすべてにおいて32塩基対または48塩基対のDNAを使用して作製した.最終的に,DNAボールオンディスク型の装置を使用して往復直線運動によって摩擦測定を行い,DNA高分子添加剤の構造が摩擦・摩耗特性にどのように影響するかについて検証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
直鎖状のDNA構造と,分岐を持ち枝の数が3,4,5,6または8個持つDNA高分子添加剤を設計した.これらのDNA高分子添加剤は,32塩基対または48塩基対の2通り設計したため,各DNA高分子添加剤は分岐の合計長さが10nmまたは15nmのDNAによって形成される.設計した塩基配列を持つ一本鎖DNAを混ぜ合わせ,温度を90℃から20℃まで徐々に低下させるアニーリング処理によって,二重螺旋を自己組織的に形成させた.作製したDNA高分子添加剤は,原子間力顕微鏡によってその形状を確認した.鏡面研磨したステンレス基板上に,10μmol/Lの濃度となるようにDNA高分子添加剤を加えた溶媒を滴下し,ボールオンディスク型の装置を使用して100回の直線往復型の摩擦試験を実施した.同じ条件で複数回の測定を行ったが,DNA未添加の場合には実験毎の摩擦係数のばらつきが大きかったのに対し,DNAを添加したものでは,実験毎の摩擦係数のばらつきは小さくなった.DNAを添加した場合,摩擦試験終了後のボール側の摩耗量が大幅に減少することを光学顕微鏡によって確認した.分岐数が少なく,鎖長が短いほど100回連続摩擦時の摩擦係数の変動は小さくなりやすい傾向が確認された.一方で,分岐数が多く,鎖長が長い方が,摩耗は抑制できる傾向が得られた.さらに,40×40nm程度のシート状のDNA高分子添加剤も作製して摩擦試験に使用した結果,摩耗量の大幅な抑制を確認した.
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Strategy for Future Research Activity |
一本鎖DNAは任意の箇所にアミノ基やリン酸基などの吸着性を持つ官能基を修飾可能であるため,それらで修飾したDNA高分子添加剤を作製し,吸着特性等について評価する.原子間力顕微鏡(AFM)のダイナミックモードでポイントプローブカンチレバーを利用することによって金属薄膜に吸着したDNA高分子添加剤を観察する.無荷重状態における表面形状の画像から,吸着密度や膜厚を簡易的に評価し,DNA高分子添加剤の吸着形態を調査する.次に,アミノ基などの官能基を修飾したDNA高分子添加剤と,鉄などの金属薄膜を成膜したシリコン基板を用いてAFMによる摩擦試験を行う.測定にはコロイドプローブカンチレバーを利用し,カンチレバーの損傷による測定結果のばらつきを抑える.分岐の数,官能基の数や位置などが異なるDNA高分子添加剤を利用し,これらのパラメータの摩擦特性への影響を評価する.また,2020年度に高い摩耗防止効果が確認されたシート状のDNA高分子添加剤も評価に加えることによって,摩擦・摩耗の抑制に機能する高分子の形状についてより深い考察ができるようにする.また,進捗状況に応じて,全反射照明蛍光観察によるDNA高分子添加剤の吸着形態の詳細な検証を実施する.DNA構造体は任意の箇所に蛍光分子を設置できるため,金属薄膜を形成したガラス基板を利用すれば表面プラズモン励起による全反射照明蛍光観察によって高分子の吸着を高感度にとらえることができる.DNA構造体の特定の位置に異なる蛍光標識を行い,複数の波長の光で励起してそれらの蛍光強度を比較することによって,DNA高分子添加剤の吸着形態を詳細に評価する.
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Causes of Carryover |
2020年度は,新型コロナウイルスの影響で研究を進めにくい状況であったため.
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