2020 Fiscal Year Research-status Report
多接合太陽電池を指向した剥離ー再接合可能かつ最適禁制帯幅を有す化合物発電層の創出
Project/Area Number |
20K14780
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
西村 昂人 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (80822840)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 多接合型太陽電池 / 化合物半導体 / カルコパイライト / 二次元層状物質 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / ファンデルワールス力 / 界面密着性 / 素子剥離 |
Outline of Annual Research Achievements |
多接合型太陽電池用Cu(In,Ga)Se2(CIGS)系トップセルの開発を目的として「素子剥離技術」の開発を実施した。従来のガラス基板上で作製されるCIGS太陽電池のMo裏面電極とCIGS発電層との接合界面において、二次元層状物質として知られるMoSe2を層状成長(c軸配向)させることで、MoSe2 原子層間の弱いファンデルワールス力により適切な界面密着性を実現し、容易に素子剥離できることが分かった。界面密着力の再現性検証のため、Mo/CIGS界面でMoSe2が層状成長した10試料においてテープテストを実施したところ、10試料全てで再現性良くCIGS発電層をMo電極から引き剥がすことができた。また、素子剥離プロセスによる太陽電池性能への影響を議論するため、変換効率12.1%のCIGS太陽電池を剥離し、Auを代替裏面電極として蒸着法により成膜することで剥離後の電池特性を評価したところ、変換効率は11.5%となり剥離前の変換効率と比較して95.0%の高い性能保持率を得ることができた。さらに、多接合型太陽電池のトップセル応用を想定して、ボトムセルで吸収し発電するための長波長光を透過できる、半透明なCIGS太陽電池の素子構造についても検討を行った。剥離後のCIGS太陽電池において、コンタクト層として、電子ビーム蒸着法により極薄のAu(5 nm)を、また、裏面透明電極として、スパッタ法により酸化インジウム・スズ(ITO)(250 nm)を積層した。その結果、変換効率6.4%の半透明構造を有するフレキシブルなCIGSトップセルの実証に至った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、当初の計画以上に進展した。素子剥離技術の再現性を決定づけるMo/CIGS接合界面の密着性は、CIGS成長過程において自然形成されるMoSe2の配向性制御が肝となることをつきとめた。従来通りの成膜法でCIGSを形成するとMoSe2はランダム配向し、単位層面内の共有結合のためにMo/CIGS界面の密着力が強固となり、CIGS太陽電池を引き剥がすことが極めて困難であった。一方、CIGSの成膜温度を調整し、MoSe2を層状成長(c軸配向)させることで適切な界面密着性を実現し、剥離プロセスに伴う性能劣化が抑制され、期待以上の高い再現性と性能保持率を実現することができた。さらに、半透明構造を有するCIGS太陽電池を試作し、トップセル単一性能の評価を前倒しで実施することできた。以上の結果から、本研究で目標とする高性能CIGS系トップセルを当初の計画以上に早く実現できる可能性が高まった。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は主に、高品質薄膜が得られる1.1eV禁制帯幅を有したCIGS発電層を用いて、素子剥離技術の開発および半透明なCIGS系トップセル構造の確立に取組んだ。次年度は、GaとInの組成比を調整し禁制帯幅を1.65eVとしたCIGS発電層の高品質化を重点的に実施する。Cu(2-x)Se前駆体を用いたCIGS成長段階においてSe2気相を供給するプロセスを設けることで、Cu(2-x)Se固体とCu-Se液体の化学平衡状態を制御する真空下でのフラックス成長法の実現に取組む。作製したCIGS膜の結晶品質を、フォトルミネッセンス法による蛍光寿命測定から評価し、電子顕微鏡を用いてCIGS結晶粒を観察する。CIGS膜成長メカニズム理解のため、CIGS成長段階で成膜を止め、エネルギー分散型X線分光(EDX)法を用いてCIGS薄膜断面の組成評価を行う。Cu-Se系相図とEDX法による組成分布を比較し、真空下での固液界面成長メカニズムについて議論する。
|
Causes of Carryover |
本科研費は主に、太陽電池の発電層であるCIGS薄膜の結晶成長に用いる真空蒸着装置の改造費に充てる予定であるが、コロナ禍のため業者との設計打合せ・調整に遅れが生じた。そのため、未使用分を装置改造費として次年度の物品費に計上する。
|
Research Products
(5 results)