2020 Fiscal Year Research-status Report
海草の形態変動のモデル化と海草藻場炭素動態モデルへの発展
Project/Area Number |
20K14835
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉開 仁哉 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 研究員 (60814994)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 生態系モデリング / 海草 / 成長解析 / バイオマス / ブルーカーボン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題開始時から概ね開発済であった海草藻場動態モデルについて、キャノピー内の光減衰計算の高度化等を行い、研究対象地であるフィリピン・ルソン島のボリナオ沿岸域海草藻場における海草2種の地上部バイオマスの空間分布再現性の精度を向上させることができた(Estuarine, Coastal and Shelf Sciencesにて発表)。これにより、本研究で開発予定の海草の生理過程を表現した数理モデルの内、共存する種との光競争、光合成、呼吸、成長など基本的な部分は完成した。 また、海草藻場動態モデルを駆動する上でベースとなる同海域を対象とした海水流動モデルについて、Delft-3DからROMSへの転換を行い、海水流動再現性の精度向上を試みた。その際、全球海洋再解析HYCOM+NCODAによる海水流速・塩分・水温・水位、及び全球気象再解析データJRA-55による風速・気温等気象条件を境界条件とし、ボリナオ沿岸域までダウンスケーリングするという手法を用いた。そして、過去に同海域にて取得した物理環境パラメータの長期連続計測データを用いて流動モデルの精度を検証したところ、従来の計算手法に比べ水位・流速・水温の再現性が大幅に向上していることが確認できた。 また、同海草藻場に隣接する海域では養殖業による環境負荷により貧酸素水塊の形成及びそれに伴う魚の大量斃死が度々問題となっている。養殖魚大量斃死発生時期について情報収集を行い、その時期の溶存酸素動態や流動場について上記長期連続計測データ及び流動モデルを用いて解析を行うことで、養殖魚の大量斃死を引き起こす貧酸素水塊の発生メカニズムを明らかにすることができた。これは、同海草藻場バイオマス変動への養殖業による環境負荷を評価する上で重要な知見になり得るものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
流動モデルや海草の成長モデルについては高度化し、精度を向上させることができた。一方、現状の海草成長モデルは未だ地上部・地下部バイオマス比が一定であると仮定したものとなっており、環境条件に応じて有機的に地上部・地下部バイオマス比を変化させるといったモデルへと発展させることが出来ていない。これは、海草の地下部栄養塩吸収メカニズムが不明瞭で、このプロセスをモデル化できていないことに起因しており、今後の検討事項となった。また、研究対象海域における水質変動と海洋・気象条件との関連性について新たな発見があり、その解析に当初計画以上の時間を使ってしまった。
|
Strategy for Future Research Activity |
海草による地下部栄養塩吸収メカニズムを解明し、モデル化に必要となるパラメータ値の推定ができるような室内実験について、検討・実施する。また、現地調査を実施し、間隙水栄養塩濃度が有意に異なる複数地点で海草の地上部・地下部バイオマス測定を行うことで、間隙水栄養塩濃度の海草の成長への影響を定量評価し、また地上部・地下部バイオマス比変動予測モデルのパラメータチューニングに使えるデータを収集する。ただし、新型コロナの影響で海外での現地調査の実施が出来ない可能性があるため、その場合は石垣島白保沿岸域の海草藻場にて現地調査を行う。そして、上記実験で得られる知見及びパラメータ推定値を元に、現在の海草成長モデルを、地上部・地下部バイオマス比の変動まで予測できるモデルへと発展させる。さらには海草成長モデルを研究対象地の流動・地球化学モデルに組み込むことで、海草の葉による浮遊有機物のトラッピングと、根の代謝作用による土壌中への有機炭素の供給といった海草の炭素固定機能を評価できるモデルへと発展させる。その後、陸域負荷の増加といった将来予想される環境変動シナリオ下での海草藻場における炭素動態の予測を行う。
|
Causes of Carryover |
新型コロナの影響で今年度予定していた現地調査のスケジュールが立てられず、詳細な現地調査の計画立案が出来なかったため、現地調査において購入が必要な物品の絞り込みが出来なかった。そのため、現地調査用の物品購入予算の一部及び旅費を繰り越すこととした。また、海草の栄養塩吸収メカニズムを解明するための室内実験について今年度検討を進めることが出来なかったため、実験に必要な物品購入費を繰り越すこととした。 来年度の夏季までに現地調査の計画立案、及び実験手法の確立に取り組み、必要となる物品購入を行う。新型コロナの影響で海外での現地調査が制限される場合は、石垣島白保沿岸域海草藻場での調査を検討する。
|
Research Products
(2 results)