2021 Fiscal Year Research-status Report
東アジアのグリーンインフラ研究2ー輪中地域の屋敷林とリ・デザインー
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20K14852
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
大野 暁彦 名古屋市立大学, 大学院芸術工学研究科, 准教授 (00758401)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グリーンインフラ / 輪中 / 文化的景観 / 屋敷林 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は主に2020年度のデータ整理およびその分析を実施したとともに、新たに比較対象として神社の社叢林を対象に研究を進めた。その結果、特に輪中地域独特の屋敷林の特徴として、隣同士の屋敷林が連続して形成され、集落を囲い込む森として形成されてきたことを明らかにした。しかしそれらの森もほとんどがすでに消失しており、現存する屋敷林はその一部が残存していることが明らかとなった。 2021年度の具体的な成果は以下の通りである。 1.《図面資料集の作成》:歴史的に形作られてきたにもかかわらず、ほとんどの屋敷林はこれまで十分に調査が行われておらずその実態は不明瞭であっただけに、図面として記録しておく重要性が高い。2020年度までに得た成果をもとに正確な現況図面を作成し、記録した資料集を作成した。 2.《3次元スキャンデータの解析》:調査で得られた3次元スキャンデータは2020年度において、盛土形状や樹木の高さや配置を把握するにとどまっていたため、得たデータをもとに緑量などの3次元的な解析を行い、定量的評価を行った。これらの分析については2022年度以降に実施する。 3.《調査対象の拡充》:屋敷林と同様に調査対象エリアで大きな森を形成している場所に神社がある。神社の森の形成過程およびその樹種、配植形態を把握することで、屋敷林との共通点ならびに違いが把握でき、輪中地域の屋敷林の特徴をより明確に理解できると考え、同地域139社を対象に社叢林の調査を実施した。その結果、集落の屋敷林と社叢林との関係はほとんどの事例で関係性が見出しにくく、調査事例の中には緑地が増加している事例もみられるなど屋敷林とは大きく異なる性格をもつ森であることが明らかになった。樹種構成などについては2022年度も継続的に調査を行い、屋敷林との関係についてより分析を深める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査に基づくデータ作成と分析から、輪中地域の屋敷林の図面化およびそのシステムが理解でき、輪中地域の全域でみられる屋敷林の特徴を明らかにしたこともあり、おおむね順調に進行、次への展開を期待できる成果を得ている。また「研究実績の概要」記載のとおり、昨年度において推進方策としていた内容については概ね成果を出すことができ、全体の進捗として、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.《屋敷林内部についての補完調査の必要性》:2021年度も新型コロナウィルスによる影響があり、各屋敷内での実測をはじめとした調査が進んでいないため、植栽密度、石垣や祠などについて十分なデータが得られていない状況にある。今後の緑地保全を検討する上でも、植生が遷移する先を予測する上で重要となる樹種構成と配植密度など把握することは極めて重要であり、外から確認できる事例について別の方法も含め調査方法を再度検討する。 2.《他屋敷林との比較研究》:これまでの研究成果より、濃尾平野輪中地域においてその他の地域ではほとんどみられない屋敷林同士が連続する共有屋敷林の可能性を指摘してきたが、樹種構成や配植、屋敷との関係、祠などの付帯構造物など各要素において、その他の地域の屋敷林と比較し、濃尾平野輪中地域ならではの屋敷林の特徴を明らかにする。輪中にある屋敷林ということもあり、石垣や祠などに他地域にはあまりみられない特徴が見出されるものと考えられる。 3.《成果発表》:2020年度に国際誌に掲載され、2021年度も国際シンポジウムで発表してきたが、来年度は集大成として3ヵ年でのこれまで得られた成果を発表する。国際学会はじめ国内各種学会発表などを発表する予定である。これkらの学会発表を通して、また関連研究者と意見交換などを実施し、今後の研究の展開の可能性について探る。 4. 《保全に向けた取り組み》:調査対象地の多くは保全対象とされておらず、世帯構成や生活環境の変化により荒廃化したり、伐採されるなど地域を代表する文化的景観にも関わらず、消滅の危機にある。2022年度には、研究の成果データをもとに今後の保全活動につなげる具体的な保全に向けた取り組み案を検討し、各関係自治体へ提案していく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナウィルスの影響もあり、研究成果の発表や相談などすべてオンラインで実施したため交通費の支出がなかった。来年度において、感染状況に応じて、対面実施の学会発表などがあれば旅費などで使用する計画である。
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