2021 Fiscal Year Research-status Report
庭園内に所在する建築の価値評価に関する研究:寺院運営組織との結付による試考
Project/Area Number |
20K14927
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
小柏 典華 芝浦工業大学, 建築学部, 助教 (40843503)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 建築史 / 近世寺院 / 庭園 / 文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、研究手法の有効性を実証的に証明することを目的として個別事例の検証を行い、庭園と建築の一体となった空間構成の建築史的再解釈をする。近世の建築は、その総数の多さから全国の現存状況を把握するため、『近世社寺建築緊急調査報告書』の作成が急がれた。近世社寺建築の全国的調査は平成前期に一段落し、この30年間にはそれらに伴う研究も着実に進んできた。しかし、その研究の実状は地域性や多様性が顕著なことから、現状はさらなる個別研究の推進が求められている。 研究対象とする、すでに文化財として評価されている庭園に対し、内部に所在する建築は、文化財価値の定まっていない事例が多い。このような建築は、文化財指定の異なる類型(有形文化財と記念物)の中で評価されるため、近世社寺建築の全国的調査においても、その評価が難しくこれまで個別研究が進められてこなかった。 以上の背景より、本研究は庭園内に所在する建築の一体とした空間構成から文化財価値を再評価するため、運営組織の変化からその構成を読み解く点に学術的独自性が認められる。また庭園と建築の関係を直接的に評価するのみではなく、そこに存在する「第3者的解釈」を加えることにより、適切な来歴調査から文化財価値を示すことを目的としている。この第3者の在り方は、文化・運営・技術・生産などさまざまな要素が介在し得るため、個別事例を精査することにより、庭園内に所在する建築の文化財価値を適切に評価する指標を構築することを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究対象は全国の庭園・建築5ヶ所を対象として選定していたが、実地調査については、依然として新型コロナウイルス感染防止の観点から十分な実地調査の機会を得ることはできず、各事例の図面収集や史料収集に努めることとした。 本年度は研究の新たな視点として、本研究の主題である「庭園と建築の配置関係・相互関係に起因する要素」として「第3者的解釈」を新規に設定し、新たに東京都内庭園における移築建造物の実情について、調査を進めた。都内における文化財指定のされる庭園内において、歴史的建造物を「移築」する時に、どのような要因が建造物の増改築及び周辺環境へ影響を与えるのか明らかにした。研究代表者の研究室所属の学生を筆頭に、実地調査を進め2022年度建築学会大会口頭発表にて発表予定である。 また本研究課題の着想を得た論文、小柏典華「近世滋賀院境内の復原的考察 運営組織と空間序列から」(日本建築学会計画系論文集(749)1317-1324,2018年7月)が、2021年度建築学会奨励賞を受賞した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度、2021年度は、徳島・福井・滋賀など各地での実測調査を予定していたが、依然として新型コロナウイルスによる実地調査への影響は大きく、関東から離れたエリアでの当初計画の実地調査を含んだ研究推進が難しい状況である。 2022年度以降は、調査対象の再選定を視野に入れて研究の継続とする。調査対象選定にあたっては、本研究の主題である「庭園と建築の配置関係・相互関係に起因する要素」として「第3者的解釈」に相当する課題を含むものとする。 新たな調査対象選定後は、新型コロナウイルス感染症対策を十分に講じた上で、所有者の同意のもと調査研究に努める。
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Causes of Carryover |
本研究は、全国各地に所在する文化財庭園の実地調査を含む研究課題であるが、新型コロナウイルスの感染防止の観点から、実地調査がほとんど実施できず、調査旅費・調査の図面整理の謝金として計上していた費用が支出できていない。 現在、関東から離れたエリアでの実地調査を含んだ研究推進が難しい状況であるため、2022年度以降は東京・関東域での調査対象の再選定を視野に入れて、実地調査を進める。
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