2020 Fiscal Year Research-status Report
災害時に渋滞位置を即時予測する手法の開発:災害に強い道路ネットワーク構築へ
Project/Area Number |
20K15004
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
楳本 大悟 神戸大学, 計算社会科学研究センター, 講師 (80812883)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 交通流 / 災害 / 社会シミュレーション / 計算社会科学 / ビッグデータ分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、主に計算機システムやシミュレーション環境の構築に取り組む中で、実データの解析にも着手した。まず、都市において渋滞が生じるのはボトルネック性によるものである可能性について、ボトルネック性の振る舞いをより踏み込んで確認するため、追加解析の取りまとめをおこなった。碁盤の目状である都市において、丁度ボトルネックが生じる程度までランダムに道路を削除した上で、全ての車が最短経路を通るという仮定に基づいて交通量を求めたところ、交通量の分布がべき的になることが明らかとなったため、この結果を電気学会誌に投稿した。この結果は、災害時に道路が寸断され、全ての人が変化後の新たなネットワークにおいてどこで渋滞が起こりうるかについて全く経験がないままに、自分が考える最短の経路を辿った結果、一箇所に交通が集中する状況と類似しており、災害時にに何が生じるかについて示唆を与えるものである。 また、阪神高速から提供を受けたETCデータを分析し、曜日や時刻を指定すれば、ほぼ利用台数を予測できることを確認し、査読付き学会誌への投稿を準備中である。さらに、2017年以降2020年までのデータが追加で入手できたため、大阪北部地震が生じた際の交通の傾向を調べることができた。その結果、地震直後に高速道路の利用が減少したものの、翌日の交通量の増加を招いた可能性があることが確認でき、比較的早く(2日程度で)元の交通量に復帰していることを確認した。COVID-19の発生による影響も確認したところ、緊急事態宣言直後の交通量には顕著な減少が見られるものの、比較的早期に(半年程度で)復帰している様子が見られることを確認した。この結果は、大きな災害も長い目で見れば交通量に大きな影響を与えることができないことを示唆しており、これらの結果についても査読付き学会誌への投稿を準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、COVID-19の流行により各方面への聞き取りを行うことが難しかったため、手元でできる研究を優先した。渋滞を再現するシミュレータ構築の一環として、阪神高速から提供を受けているETCデータをOD(出発・到着地)ペアとした、阪神高速ネットワーク全域を対象とするシミュレーションを実行するため、不正確なところがあるものの全域を再現した地図を作成し、ランダムODによって実際に動作することを確認した。さらに、シミュレーション実行のため、ETCデータからODデータへの変換規則を全て手作業で作成中である。また、シミュレーション構築の基礎段階として、比較的小規模なマルチエージェントシミュレーションをオープンソースパッケージを用いて実装した。また、上記変換規則を生成するにあたって実データの分析が必要となり、そのため、省略が含まれた約5億行のエントリを含むビッグデータである上記ETCデータを処理できるアプリケーションを作成し、その一環として比較的短時間での分析を可能とする枠組みを整えることができた。シミュレーションの実装においては、データの不完全性が原因でやや進展が遅れているものの、実データ分析において進展があったため、おおむね順調であると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
シミュレーション構築および都市における道路のネットワーク分析は本研究において最も重要であり、今後も実装と分析を続ける。その一環として、計画通りETC・ODの変換規則を完成させ、阪神高速の全域デジタル地図の完成度を更に上げたうえで実データを投入することにより、シミュレーションの正確性を担保し、キャリブレーションの有効性を高めたい。また、トラフィックカウンタのデータを用いることで、ミクロシミュレーションの構築およびキャリブレーションを試みたい。 一方で、研究実績の概要において述べたように、ここ数年は激甚とも言える災害や事件が数多く起こり、その結果として何が起きたか実データから読み取ることができた結果、実データ分析が極めて重要であることを認識した。これに基づき、例えばCOVID-19流行のような大変動が生じた状況下における交通需要の変化傾向を詳細に示すとともに、機械学習の手法も導入することで、激甚災害時においても有効な予測の提案を試みたい。 さらに、昨今の事情により、計画していたシミュレーション構築・災害研究を主に遂行している他研究室への聞き取りを行うことが難しかったが、その後普及するようになった遠隔会議ツールを活用することにより、今よりも活発な情報収集・発信を行なっていきたい。
|
Causes of Carryover |
COVID-19の流行により、計画していた打ち合わせなどが全て取りやめとなり、旅費の支出がなかったため。次年度以降は、データ分析の重要性によって必要性を新たに認識した計算機の導入に使用する。
|