2022 Fiscal Year Annual Research Report
走査透過型電子顕微鏡による局所領域における化学結合電子の可視化手法の開発
Project/Area Number |
20K15014
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関 岳人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90848558)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 走査透過電子顕微鏡 / 微分位相コントラスト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、走査透過電子顕微鏡(STEM)の一手法である微分位相コントラスト(DPC)法を用いて原子スケールの電場を可視化し、局所領域の化学結合情報を抽出することを目的としている。まずDPC STEM法の線形結像理論を厚みのある弱位相物体近似の範囲内で構築し、結像特性を理解する基礎を築いた。しかしながら、実際は電子が試料中を透過する際には複数回散乱が起きるために、原子分解能で取得したDPC STEM像から原子スケールの電場を直接的に定量することは難しい。そこで、DPC STEM像における多重散乱の効果を、STEM像の反復的シミュレーションにより推定・除去することで、本来の電場像を再構成するアルゴリズムを開発した。まず、多重散乱を考慮せずに推定した電場に基づいてDPC像シミュレーションを行い、シミュレーションと実験の差分から線形結像理論に基づいて電場の推定を補正した。これを繰り返し行うことで、DPCシミュレーション像をテストデータとして試料厚み10 nm程度までの条件での有効性を確認した。SrTiO3試料をモデル試料として、実験データに対するアルゴリズムの有効性を検討した。実験データにはノイズが存在するため、本手法が再構成する電場像にもノイズが大きく影響したものの、化学結合に関与する低い空間周波数の成分については再現性のある再構成が可能であることがわかった。実験より得られた再構成結果を、いくつかの理論モデルと比較した。理論モデルとして、孤立原子モデル(中性原子、イオン原子)、密度汎関数法による第一原理計算結果、を採用し比較したところ、第一原理計算の結果と最もよく一致した。このため、本手法は定量的な電場像再構成に成功し、イオン結合の抽出に成功したと考えられる。この結果はSrTiO3試料の平均構造を捉えた結果であるが、界面などの局所領域でも同様の解析が可能となると期待される。
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