2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K15019
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
気谷 卓 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (30771828)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピンフラストレーション / ハイパーカゴメ反強磁性体 / トポケミカル反応 / 熱測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,三角形が3次元的に頂点共有したハイパーカゴメ格子を有する反強磁性体の探索を目的とするものであり,様々なアプローチで物質合成を試み,それによって得られた試料から新たな物性を創出しようとするものである。本年度は,当初の予定通り既知の物質とは異なるスピン数・軌道自由度を有するハイパーカゴメ反強磁性体の新規開拓を目指し,研究開始時に既に得ていたZn2Mn3O8およびCo3V2O8の物性測定,さらにZnMgMn3O8のイオン交換反応による物質合成および物性測定を行った。また,第一原理計算を用いた物質探索も試みた。 Zn2Mn3O8はS=3/2のMn3+イオンがハイパーガゴメ格子を組んでおり,T_N=5.7Kで反強磁性転移を示すことが分かった。Co3V2O8でハイパーガゴメ格子を作っているCo2+イオンは,軌道自由度の影響により擬スピンS=1/2となっていることが分かり,T_N=2.5Kで反強磁性転移を示すことを発見した。ZnMgMn3O8はMn3+が作るハイパーカゴメ格子がブリージングしている可能性が示唆され,T=5.6Kで熱容量に鋭いピークを示す一方,磁化率では何の変化も見られないことから,特異な磁気構造を形成していることが予想された。これらの物質で興味深い点は,いずれの低温熱容量も3次元磁性体に予想される温度依存性とは異なり,2次元磁性体に近い温度依存性を示す点である。このような特徴的な熱容量をもたらす磁気構造を明らかにすることが今後の課題であり,次年度に中性子実験を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度初頭は新型コロナウイルスの影響により出校が制限され,さらにヘリウム液化施設の故障により物性実験が行えない期間が長引いたこともあり,当初の予定よりは多少の遅れが生じた。しかし,Zn2Mn3O8の物性を明らかにし,本研究に関する論文を投稿中であり,また,Co3V2O8も十分なデータが取れたため,論文を次年度に投稿できる見込みである。そして,新物質ZnMgMn3O8も合成し,熱容量以外に相転移で変化が見られないという非常に面白い結果が得られた。こちらの物質に関しては合成時に不純物相が現れる問題が残っており,試料合成法の確立を急ぎ,来年度中の論文投稿を目指す。 これらの物質以外にも第一原理計算に基づき様々なハイパーカゴメ物質の安定性を調べ,固相反応法による物質合成を実際に様々試みたが,現在のところめぼしい物質は得られていない。ただ,サイト混合の問題をもつZn2Co3TeO8は,合成条件を工夫することによってサイト混合を比較的抑えられる結果が得られてきているため,次年度にはその物性を報告できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,Co3V2O8の論文投稿,ZnMgMn3O8およびZn2Co3TeO8についての試料合成法の確立を目指す。そして,これまではリチウムイオンと金属イオンのイオン交換反応により物質開拓を行ってきたが,次年度では当初予定していたとおりリチウムイオンを脱離することで電荷自由度を変調させ,新物質を探索していく予定である。これまで合成してきたZn2Mn3O8の前駆体Li2ZnMn3O8はLi(Zn0.5Mn1.5)O4とも表され,スピネル構造においてBサイトが1:3の割合で秩序化した物質となっている。スピネル化合物LiMn2O4では塩酸によるリチウムイオンの脱離が報告されており,Li(Zn0.5Mn1.5)O4においても塩酸などの酸でリチウムイオンを脱離できるのではないかと考えている。酸による脱離がうまくいかない場合には,ヨウ素や臭素を利用した酸化還元反応によりリチウムイオンの脱離を試みる。
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Causes of Carryover |
本年度初頭は新型コロナウイルスの影響により出校が制限され,さらにヘリウム液化施設の故障により液体ヘリウムが購入できない期間が長引いたこともあり,支出内容が当初の予定から大きく変わった。まず,実験が行えない代わりに第一原理計算を利用した物質探索を行うため,Vienna Ab initio Simulation Package(VASP)を購入した。そして,年度終わりにようやくヘリウム液化施設が復旧したため,液体ヘリウムの購入自体が当初の予定より大幅に少なくなった。また,新型コロナウイルスの影響により学会がオンラインに切り替わったことにともない,旅費として計上していた経費が余ることとなった。 次年度では当初の予定通り試薬および液体ヘリウム購入に経費を当て,新型コロナウイルスの情勢に合わせて旅費の経費を液体ヘリウム購入に回したいと考えている。
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