2020 Fiscal Year Research-status Report
X線全散乱を利用した非晶・結晶混合物に対する革新的構造解析技術の確立
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20K15031
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
廣井 慧 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 博士研究員 (10761588)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | X線全散乱 / PDF測定 / 結晶・非晶分離解析 / リチウムイオン電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の科研費研究において、申請者は「全散乱測定を利用した分離解析方法」の開発と改良、リチウムイオン電池の正極材料Li2VO2Fの結晶・非晶相分離構造解析、X線全散乱測定用試料スピナーの開発を行った。 科研費研究開始当初より、申請者は全散乱測定によって結晶・非晶相の構造情報を分離できることを見出し、「全散乱測定を利用した分離解析方法」によって幾つかの試料の分離解析を実施してきた。しかしながら、結晶中の原子サイトが複数の元素によって占有される(substitution disorder)場合、正しく結晶相の回折・散乱強度を評価することができずに非晶相が分離できない問題が確認された。本研究課題で対象とするLi2VO2Fは、カチオンサイトをLi/V、アニオンサイトをO/Fが占めるdisordered rock salt構造であり、正しく結晶相の寄与が評価できなかったため、研究の進展にはこの問題の解消が急務であった。申請者はsubstitution disorderに由来する散漫散乱成分の評価を行うことでこの問題を解決した。 上記の分離解析方法の改良を踏まえ、Li2VO2Fの結晶・非晶相分離構造解析を行った。Li2VO2Fは充電によって一部が非晶化するが、その際にVイオンが溶出し、それが非晶相を構成することを突き止めた。放電によってこの非晶相は結晶相に戻るものの、この反応は微視的には可逆的でなく、結晶相中のVイオンの局所的な濃度分布を変化させることを明らかにした。この結果は現在学術誌Chemistry of Materialsに投稿しており、審査中である。 その他、X線全散乱測定時に使用する選択配向除去用の試料スピナーを開発した。スピナーの導入によって、様々な結晶性試料の全散乱を定量的に得ることができ、分離解析方法の適用範囲の拡大に資すると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、申請者は「全散乱測定を利用した分離解析方法」の改良、Li2VO2Fの結晶・非晶相分離構造解析、X線全散乱測定用試料スピナーの開発を行った。 Li2VO2Fの結晶・非晶相分離構造解析では、当初「全散乱測定を利用した分離解析方法」による正しい評価ができないことは想定されていなかったものの、2020年度の解析方法の改良を行いこの問題を克服することで、Li2VO2Fの分離構造解析に成功した。まとめた結果を学術誌Chemistry of Materialsに投稿することができた。 X線全散乱測定用試料スピナーの開発を終えたことにより、選択配向を除去して結晶性試料のX線全散乱を定量的に得ることができるようになった。スピナーの開発と上記の「全散乱測定を利用した分離解析方法」の改良によって、様々な試料に対してより確度の高い結晶・非晶相分離解析を実施できるようになった。 以上より、本研究課題は概ね順調に進展していると判断したほか、今後の研究推進においても当初の測定対象であるLi2VO2Fだけでなく様々な試料への展開を期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本研究課題は当初予定のLi2VO2Fだけに限らず、様々な材料に対するX線全散乱測定と分離解析の実施に注力する予定である。現在のところ、Si-Ge系微結晶粉末試料やPb系リラクサー誘電体に対する全散乱測定と結晶・非晶相分離構造解析を検討している。これらの試料に対する透過電子顕微鏡(TEM)像はすでに取得しており、TEM像から得られる結果と分離解析結果の比較を行うことで、この解析方法の有効性についてより詳細に検討できると期待される。また、全固体電池の硫化物系固体電解質についても適用し、電池特性と非晶化度等構造パラメータの関連付けが可能かどうかを調査する。 この分離解析方法は、現在のところ申請者本人のみが利用可能なソフトウェアであるが、今後は分離解析方法に興味のある研究者と協力することで、利用者の拡大を図る。その際、初学者にも簡便に利用できるようにGUIの開発にも取り掛かる。
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Causes of Carryover |
2020年度の物品費として計上した試料用スピナーは、当初予定よりも非常に高額となった。そのため、購入予定であった解析用計算機を購入できなかったために次年度使用額が生じた。また、試料用スピナーの開発が遅れたためにSPring-8での測定を行うことができなかったことも理由に含まれる。 2021年度は下期にSpring-8での測定を目指して試料および申請書の準備をしている。測定の実施が決定すれば、測定に係る消耗品費として計上する予定である。また、現在Chemistry of Materialsに投稿中の論文は、広い領域の研究者に読んでもらいたいことからオープンアクセスを申請する予定であり、その費用に計上する。
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Research Products
(1 results)