2020 Fiscal Year Research-status Report
転位工学に基づいた加工誘起マルテンサイトの高強度発現機構の解明
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20K15050
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増村 拓朗 九州大学, 工学研究院, 助教 (40804688)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 加工誘起マルテンサイト / 転位密度 / X線回折 / mWH/WA法 / ステンレス鋼 / 準安定オーステナイト鋼 |
Outline of Annual Research Achievements |
準安定オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304(Fe-18%Cr-8%Ni合金)に対して、液体窒素温度(77K)への冷却および冷間圧延を施し、焼入れマルテンサイトと加工誘起マルテンサイトをそれぞれ生成させた。それらの組織、転位特性、硬さを比較した。 焼入れマルテンサイトはhcp構造のεマルテンサイトを中間相としたγ→ε→α'変態により形成されており、数μm程度の極微細な組織を呈している。加工誘起マルテンサイトはεを経由する場合としない場合があり、その組織サイズにはばらつきがあるが、焼入れマルテンサイトよりも粗大なブロックが形成していた。これは、加工誘起マルテンサイトでは応力・ひずみに依存したバリアント選択が生じ、特定のバリアントが集団となって形成されているためであると考えられる。 それらの微細組織に対し、ナノインデンテーション試験による硬さ測定を行った。加工誘起マルテンサイトは焼入マルテンサイトに比べて硬さが高く、圧延率の上昇に伴い硬さも増加する。また、X線回折法により両者の転位密度を測定した結果、加工誘起マルテンサイトは焼入れマルテンサイトに比べて転位密度が大きく、圧延に伴いその値は上昇する。これは、強加工された高い転位密度をもったオーステナイトの転位を引き継いで変態したためであると推察される。両者のマルテンサイト組織の硬さは転位密度で整理することができ、加工誘起マルテンサイトの高強度の要因は、高い転位密度であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目では、焼入れマルテンサイトと加工誘起マルテンサイトの特性の違いについて調査を行い、加工誘起マルテンサイトで転位密度および硬さが高いことを明らかにでき、当初の予定通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目では、焼入れマルテンサイトと加工誘起マルテンサイトの特性の違いについて調査を行い、加工誘起マルテンサイトで転位密度および硬さが高いことを明らかにできたので、2年目では、なぜそのような結果が得られたかを検討する。現状では加工オーステナイトに高い転位密度が導入されていることが加工誘起マルテンサイトの高強度の要因であると推察されるので、オーステナイトの積層欠陥エネルギーを変化させ、オーステナイト中に導入される転位量を変化させることで、加工誘起マルテンサイトの特性が変化するかどうかを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
参加予定の学会が国内、海外ともにキャンセルまたはオンラインになったため、旅費の支出がなかった。次年度で国際会議が開催される予定になっているので、その旅費に充てる予定である。
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