2021 Fiscal Year Research-status Report
水素結合を導入した高強度バイオマスエラストマーの設計と開発
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20K15052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒川 成貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員 (50837333)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 再生可能資源 / 水素結合 / エラストマー / 生分解性 / 粘弾性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,バイオマス由来の液状高分子であるPoly(4-methyl caprolactone)(PMCL)の分子鎖間に水素結合を導入すること,および材料内部における水素結合の分布制御をおこなうことで石油由来の汎用エラストマーに匹敵する熱物性・力学特性を有する実用可能なバイオマスエラストマーの開発を目的としている.初年度においてはPMCLの固体化のため,水素結合を発現するウレタン基を有するPMCL(PMCL-PU)の合成方法の確立とその加熱圧縮成型によるフィルム状試料への成型を達成していた. 当該年度は,前年度に確立したPMCL-PUの合成方法をもとに,ウレタン基量の異なるPMCL-PUを数種類合成し,構造中の水素結合量および力学強度の解析をおこなった.具体的には,PMCLの合成時にモノマーと開始剤の比率を変化させて分子量を制御し,分子量2,000~10,000 g/molとなるPMCLプレポリマーを得た.これをhexamethylene diisocyanateと反応させてPMCLを連結させ,分子鎖中のウレタン基の量が異なる数種類のサンプルを用意した.FITR測定の結果,PMCLプレポリマーの分子量が小さくなるほどウレタン基由来の水素結合量が増加する傾向が明確に見られた.また,DSC測定により,ウレタン基量の増加につれガラス転移点(Tg)が-60℃から-50℃まで上昇することがわかった.これは水素結合により分子鎖運動性が抑制されたためと考えられる.一方で,引張試験を実施したところ,分子量5,000 g/molのPMCLプレポリマーを用いたPMCL-PU (PMCL5k-PU)で最も高い弾性率を示した.PMCL5k-PUは他のPMCL-PUと比べ高い分子量を有しており,そのため水素結合だけではなく分子鎖の絡み合いによる架橋点も多く存在したために弾性率が向上したと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,再生可能資源であるリグニンを原料として合成が可能な液状高分子であるPoly(4-methyl caprolactone)(PMCL)に水素結合を導入することで固体化し,従来利用されてきた石油由来の汎用性エラストマーに匹敵する熱物性・力学特性を有するバイオマスエラストマーを開発することを目的としている.本研究のプロセスは,液状高分子であるPMCLへの水素結合導入法の確立,PMCL分子鎖の一次配列制御により誘起される自己組織化を用いた高次構造制御および構造解析,合成したバイオエラストマーの熱物性,力学特性,粘弾性評価というステップで構成される. 当該年度においては,前年度に確立したウレタン基を導入したPMCL(PMCL-PU)の合成方法をもとに,分子鎖中のウレタン基量を変化させたPMCL-PUを複数種類作製し,その構造,および熱物性,力学特性の解析をおこなった.具体的には,分子量の異なるPMCLプレポリマーを開環重合法により合成し,このPMCLとHexamethylene diisocyanateを反応させることで,異なるウレタン基量を有するPMCL-PUを得た.このPMCL-PUにおいて,ウレタン基量を設計通りに変化させることが可能であることが分かった.またウレタン基由来の水素結合の増加にともない,分子鎖の運動性が抑制されることでガラス転移点の上昇が見られた.さらに,引張試験の結果より,材料中の水素結合量のみではなく分子鎖の絡み合いによる架橋点も材料の弾性率に寄与していることが示唆された, 以上より,ウレタン基量の異なるPMCL-PUの作製,およびその構造と熱・力学物性の評価までおこなうことができ,進捗状況としておおむね順調に進展していると判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度において評価に用いたPMCL-PUは,水素結合を形成可能なウレタン基が材料内において比較的均一に分布した状態で作製されていると考えられる.このPMCL-PUが応力負荷により変形した場合,個々の水素結合がすぐに解離して応力緩和を生じやすい状態であるために,弾性回復試験をおこなったところおよそ40%程度の塑性ひずみが生じることが確認された.この問題を解決するために,材料内部において水素結合が偏在するように分子設計することで,伸縮性を水素結合が少ない領域が担保し,材料の強度を水素結合が密集した領域が担保するような構造を実現することを考えた.現在,材料内部において水素結合が偏在するように一次配列制御を可能な合成方法を確立できている.次年度においては,以上のような一次配列制御可能な合成方法を用いて,水素結合の偏在状態を変化させた試料を複数種類用意し,その水素結合の偏在するPMCL-PUの詳細な内部構造,および熱物性,力学特性,粘弾性の解析をおこなう.最終的には材料内部における水素結合の分布と材料の諸物性との関連性を明らかにすることで,実応用可能なバイオマスエラストマーの開発を目指す.
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Causes of Carryover |
当該年度は新型コロナウイルスの影響により,学会参加を見送ることとしたため旅費の執行を取りやめることとなった.また,令和3年度の初めに所属機関を異動し,異動先の所属機関において試料真空乾燥システムを構築することを検討したが,購入に必要な資金が不足していた.次年度使用額として持ち越すことで次年度に真空乾燥システムの構築をおこなうための研究資金として令和4年度に利用する予定である.
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Research Products
(8 results)