2020 Fiscal Year Research-status Report
完全結晶表面基板上でのFe3O4極薄膜の巨大相転移特性の創出
Project/Area Number |
20K15116
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大坂 藍 大阪大学, 産業科学研究所, 特任助教(常勤) (70868299)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マグネタイト / Verwey transition / 表面処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
独自技術で作製した結晶完全性の高い単結晶MgO基板を用い、強相関電子系酸化物であるマグネタイト (Fe3O4) の極薄膜において巨大相転移特性を発現させることを目的に研究を進めてきた。Fe3O4は120 K近傍で絶縁体から金属へと転移(フェルベー転移)し、転移に伴い電気抵抗率が2桁以上変化する等の魅力的な物性から、スピントロニクス応用の観点で注目を集めているが、厚さが100 nm以下の薄膜試料では試料内に導入される欠陥を主原因にその特性が著しく劣化する。薄膜試料は必ず成長用基板の表面ダメージの影響を引き継ぐため、本研究では触媒表面基準エッチング(CAtalyst-Referred Etching; CARE)法を用いて成長用基板の表面に結晶性、平滑性が共に優れた表面(完全表面)を実現し、その上にFe3O4極薄膜を成長させ、その特性を評価した。 成長用基板にはFe3O4と格子ミスマッチの小さい単結晶MgO基板を用いた。CARE加工前(市販基板、CMP仕上げ)の表面は平坦ではあるものの表面構造が乱れており、結晶構造に起因する周期的構造は観察できない。一方CARE加工を行った表面では、粗さの更なる減少に加え、表面に原子単位のステップテラス構造が観察された。さらに、RHEED、TEM観察等により、CARE加工後のMgO基板の結晶性向上、表面欠陥密度の減少が確認でき、成長用基板上の完全表面が達成された。MgO完全表面上に作製した厚さ50 nmのFe3O4極薄膜では、薄膜/基板界面から格子ずれのほとんどないオーダーした原子構造が観察でき、未加工基板上のFe3O4極薄膜に比べ、CARE加工基板上のFe3O4極薄膜では抵抗変化比が5倍以上に向上した転移特性を示し、相転移特性の向上が達成された。以上より、薄膜物性の向上に対し、成長基板における完全結晶表面の有意性を実証する成果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の根幹である成長用基板への完全結晶表面の実現、およびそれによるFe3O4極薄膜の結晶性、及び転位特性の向上が達成、実証できており、申請時の計画内容はおおむね順調に進展しているといえる。また、昨年度行った薄膜/基板の結晶構造、欠陥密度等の詳細観察から、当初予期していた薄膜物性劣化要因、アンチフェーズバウンダリーとは異なる根本的な結晶欠陥の発生が確認されており、今後の研究計画にある厚さ10 nmのFe3O4極薄膜を用いた超高品質Fe3O4デバイスのデモンストレーションの実現可能性を高める知見を得ている。さらに、強相関酸化物の一種であるVO2薄膜についても基板表面改善による結晶性向上の傾向を見出しており、これらの成果に基づき、今後も本研究課題を順調に推進できると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画で予定していた通り、薄膜/基板界面条件の異なるサンプルを統計的に評価し、薄膜試料内に導入される欠陥密度を極限まで減少させた10 nmFe3O4極薄膜を作製する。得られた中で最良の条件下にて作製したFe3O4極薄膜をソースとし、高スピン偏極率での半導体(GaN等)へのスピン注入を行い、スピントロニクスデバイスとしての機能実証に取り組む予定である。
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Research Products
(5 results)