2020 Fiscal Year Research-status Report
久保・ラッティンジャー理論による熱電ナノ材料戦略の具現化
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20K15117
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松原 愛帆 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 研究員 (20867832)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 不純物ドープ / 熱電材料 / 久保・ラッティンジャー理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱電性能を高精度に評価することができる久保・ラッティンジャー理論を用い、低次元ナノ材料の熱電性能を定量的に評価するとともに、高効率な熱電材料の開発における設計指針を理論的に提示することを目的とする。 令和2年度は、フレキシブルな1次元熱電材料である半導体カーボンナノチューブ(CNT)に着目した。特にn型半導体CNTとして、窒素をドープした半導体CNTの熱電性能の温度依存性を明らかにした。物質の熱電出力をあらわす性能指数であるパワーファクター(PF)は、不純物イオン領域では温度の上昇に伴い増加する。これは不純物バンドから伝導帯へ熱励起した電子数の増加によるものである。一方、価電子帯からの熱励起が支配的となる真性領域では、励起した電子とホールが互いの影響を打ち消し合うことで、PFは急激に減少する。そのため、PFはある温度で最大となり、また、その温度は窒素のドープ量に強く依存することが明らかとなった。そこで次に、直径1.6nmの窒素ドープCNTに対し、PFと窒素ドープ量の関係について調査した。その結果、温度毎にPFが最大となる最適な窒素ドープ量が存在することが明らかとなった。以上より、窒素ドープ量を制御することで、例えば室温では0.3W/mK^2という非常に高いPFが得られることを理論的に提示した。 また、CNTからなるCNT薄膜において、熱電伝導率とよばれる量が材料の次元性を顕著に反映することを理論・実験の両面から示した。これにより、これまで熱電材料の評価において重要視されてきたゼーベック係数、パワーファクターに加えて、より基本的な量である熱電伝導率を調査することの重要性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
久保・ラッティンジャー理論と温度グリーン関数理論を組み合わせたアルゴリズムに基づいた熱電応答解析プログラムの作製が完了し、様々な不純物をドープした半導体CNTの熱電性能の温度依存性を調査することが可能となった。その結果、令和2年度は不純物制御によって半導体CNTの熱電性能を最大化できることを明らかにし、不純物量の最適値についても定性的かつ定量的に示した。令和3年度は、このプログラムを用い、様々な直径のCNTに対して網羅的な熱電性能の調査を行うことでより汎用性の高い設計指針を提示する。 以上のように、本年度の進捗状況は、申請当初の予定通り順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、様々な直径のカーボンナノチューブ(CNT)の熱電性能について網羅的に調査し、CNTの熱電性能を最大化するような最適な不純物ドープ量を明らかにする。また、CNTの直径と最適な不純物ドープ量との関係を明らかにすることで、様々なCNTに対して広く適用できる熱電性能の最適化に関する設計指針の提示を目指す。 次に、1次元ナノ材料よりも状態密度を変調させる外部パラメータが多い2次元ナノ材料に着目し、その熱電特性を明らかにする。まず、面に垂直な電場の印加によってバンドギャップが形成される2層グラフェンに着目する。この2層グラフェンの状態密度はバンド端で急峻なピークをもち、そのピークの大きさは外部電場の強さに依存する。そのため、外部電場の制御による2層グラフェンの熱電性能の最適化について定性的かつ定量的な提案を行う。また、原子層材料に引っ張りや捻りを加えた際の構造変化が引き起こす電子状態の変調に注目し、熱電性能の歪みエンジニアリングの可能性について調査、検討を行う。
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Causes of Carryover |
当初参加を予定していた国内外の学会や国際会議が延期となり、令和3度に学会参加費、旅費を繰越す必要性が生じた。 令和3度は令和2年度延期された国内外の学会および国際会議に参加し、学会の参加費、旅費に使用する予定である。
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