2022 Fiscal Year Annual Research Report
久保・ラッティンジャー理論による熱電ナノ材料戦略の具現化
Project/Area Number |
20K15117
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松原 愛帆 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 助教 (20867832)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ゼーベック係数 / パワーファクター / 熱電材料 / 薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,電界効果によってキャリアを注入することで高い熱電性能を示すことが報告されたFeSe薄膜に着目し,その電子状態を検討することで熱電性能を向上させる新たな設計指針を提示した. 熱電変換性能の指標であるパワーファクターPFを向上させるためには,電気伝導率L11とゼーベック係数Sの増大が必要であるが,それらはトレードオフの関係にあるためその実現は容易ではない.しかしFeSe薄膜はL11,Sともに非常に高い値を示す(S. Shimizu et al., Nat Commun,10, 825, 2019).FeSe薄膜は50K以下で超伝導を示すことから,50K以上では金属であると予想されるが,Sは半導体であるかのような大きな値を示している.この大きなSの要因として超伝導揺らぎや励起子相互作用の影響を調査したが,いずれもその主要因ではないことを確認した.そこで,垂直電場の印加によりFeSe膜の空間反転対称性が破れ,伝導帯の軌道の縮退が解けていると想定した.その結果,軌道の分裂の大きさが温度と同程度のとき,伝導バンド端近傍でSが増大することが明らかとなった.これは分裂した高エネルギー側のバンドからの半導体的な影響をSが受けるためであり,大きなL11とSの両立の可能性を示唆している.一方で,PFは高エネルギー側のバンド端で最大となる.すなわち化学ポテンシャルを最適化することで電圧駆動型,電流駆動型のどちらに対しても熱電性能を最大化することが可能である.以上より,外部パラメータによって電子状態を変調させることで,大きなL11と大きなSを実現させるという新たな熱電材料開発の指針を示した.
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