2021 Fiscal Year Research-status Report
高速AFMと蛍光顕微鏡の複合機を用いた転写開始素過程の解明
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20K15140
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
福田 真悟 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任助教 (90829186)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 転写開始過程 / 転写 / 一分子計測 / RNAポリメラーゼ / 高速原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
転写開始過程では、RNAポリメラーゼ(RNAP)がDNAのプロモーター領域を認識して開始前複合体を形成し、伸長複合体へ構造変化をした後RNAの合成を開始する。この転写開始過程が転写全体の律速段階と考えられているため、転写がどのようなメカニズムで開始されるのか明らかにすることは、RNAの合成メカニズムを理解するうえでとても重要である。本研究では、高速原子間力顕微鏡(AFM)や一分子蛍光顕微鏡などの単分子計測の手法を用いて、転写開始過程における動的プロセスの観察を目指している。 本年度は、開始前複合体の高速AFM観察を行った。チューブ内で開始前複合体を形成させて基板に固定し観察を行うとDNAがRNAPに巻き付くようにして複合体を形成していることが明らかになった。さらに、この巻き付き過程をリアルタイム観察するとDNAが繰り返しRNAPに巻き付く様子が観察された。複数のプロモーターや変異プロモーター配列を用いて観察した結果、DNAが巻き付いている時間はプロモーターの強度によって変化することが分かった。また、DNAが巻き付くときにRNAPのβ’サブユニットが大きく開く様子が観察された。これらの高速AFM観察の結果から、開始前複合体を形成する分子メカニズムを明らかにすることが出来た。 また、高い時間分解能でRNAPとDNAの複合体を観察するための技術開発を行った。カンチレバーの振動振幅がセットポイントを下回った時にPID制御回路のゲインを変調する回路(ダイナミックPID)の開発を行った。この下側の閾値を設定したダイナミックPID法を用いることで、比較的脆いタンパク質複合体であるアクチンフィラメントを60 fpsで観察することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高速AFM観察によって、DNAがどのようにRNAPと相互作用し開始前複合体を形成するのかを明らかにすることが出来た。これまでに、開始前複合体においてDNAがRNAPの周りに巻き付いていることを示唆する実験結果が示されてきたが、高速AFMのインタラクティブモードを用いることにより確実な証拠を示すことが出来た。さらに、DNAの巻き付き過程のリアルタイム観察から、DNAがどのようなメカニズムでRNAPの活性部位と結合するのか可視化することに成功した。これまでに、DNAがRNAPの活性部位に取り込まれる様式ついて主に二つのモデルが提唱されてきた。一つはRNAPのβ’サブユニットが開き、DNAが2本鎖のまま取り込まれる”clamp-opening”モデル、もう一つはDNAがRNAPの外側で1本鎖にほどかれてRNAPの活性部位に取り込まれる”external unwinding”モデルである。前年度に開発した脂質基板を用いてDNAをゆるやかに基板に固定し、観察溶液中にRNAPを加えて高速AFM観察を行うとDNAがRNAPの周りに巻き付くときに、β’サブユニットが大きく広がる様子が観察された。この結果は、”clamp-opening”モデルを強く支持するものであり、開始前複合体の形成メカニズムに関して重要な知見を得ることが出来た。 また、カンチレバーの振動振幅がセットポイントを下回ったときにエラー信号を増幅させるダイナミックPID回路の開発を行い、探針から試料に加わる力の低減化に成功した。これにより、ビデオレートを大きく上回る60 fpsのフレームレートでアクチンフィラメントを観察することが出来た。この開発によって、より高い時間分解能での転写開始過程の高速AFM観察が達成されることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に開発したダイナミックPID法を用いて、DNAがRNAPに巻き付く過程の高速AFM観察を行う。今年度の観察では、RNAPとDNAの弱い相互作用から、高い時間分解能での観察が困難であったため、詳細な複合体形成過程を可視化することが出来なかった。ダイナミックPID法を用いることによって、カンチレバー探針から試料へ印可する力を低減することが出来るので画像取得時間を短くし、中間体の有無やRNAPのサブユニットが構造変化するタイミングを解析して、DNAがRNAPに巻き付く分子モデルを構築する。さらに、開始前複合体を形成させた後、観察溶液にNTPを加えてabortive initiation時のRNAP-DNA複合体の動態を可視化する。 高速AFM / 蛍光顕微鏡複合機にイメージスプリッティング光学系を導入し、高速AFMと複数の蛍光色素を同時観察可能な実験システムを構築する。DNAを2色の蛍光色素で標識して蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いることで、RNAPによってDNAが2本鎖から1本鎖へほどかれて、開始前複合体を形成する様子を可視化する。高速AFMとマルチカラー蛍光顕微鏡の複合機を使い、DNAがRNAPに巻き付く過程とFRETを同時観察して、開始前複合体の形成メカニズムを明らかにする。
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