2021 Fiscal Year Research-status Report
神経ネットワーク発達に伴うダイナミクス変化の網羅的計測
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20K15143
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
箕嶋 渉 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任助教 (70802875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 培養神経回路網 / 顕微鏡 / レーザー / 細胞外電位多点計測 / 蛍光解析 / 情報理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は昨年度に構築した光ピンセット顕微鏡システムに細胞外電位多点計測システムを導入し,神経伝達に重要なシナプス小胞の光捕捉と,光捕捉過程での電気活動変化を解析した.光捕捉用の波長1064 nmのレーザー(レーザー光強度500 mW)をFM1-43で染色されたシナプス小胞に推進対物レンズ(NA 1.0)で集光した結果,シナプス小胞の集合に伴ってレーザー照射領域の二光子励起蛍光強度が増加したことを明らかにした.また,レーザー照射に伴って細胞外電位多点計測によるスパイク頻度が上昇したことを明らかにした.本結果に関しては試行回数が限定的であり,今後再現性を確認し,論文投稿を予定している. 多電極アレイを用いた従来の研究では同期バーストなどの空間的なスパイク数の総和を空間パターンとして解析した例が多い.一方で,ネットワークを構成する各神経細胞もしくは神経細胞モジュール同士の空間的な結合特性変化を解析する手法は,これまでに相互相関など一部の手法を除いて未だ発展途上であった.そこで,申請者らは細胞間の結合評価手法構築に着手した.本課題では,神経細胞間の結合評価法として移動エントロピーを用いた.移動エントロピーは2系列の時系列データ列間で情報の伝達強度を評価する手法であり,細胞外電位測定により得られたスパイク列の解析に有用であると考えられる.申請者は,神経ネットワークにおける機能的結合形成,機能的結合強化,ネットワーク成熟の3つの発達過程において細胞外電位多点計測により得られたスパイク列を移動エントロピー解析し,回路網の成熟による細胞間の結合強度を評価できた.この成果は学術論文を投稿準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度中に構築した光ピンセット顕微鏡システムに細胞外電板点計測システムを導入し,神経伝達物質を格納し,神経伝達において重要な分子であるシナプス小胞群を光捕捉し,捕捉と同時に細胞外電板点計測によるスパイク列データを取得する装置開発とその動作確認を終了した.この計測システムにより,神経伝達に重要な分子群の制御と神経活動の関係性を評価できると考えられる. また,細胞外電位多点計測により得られた多次元スパイク列データから,各神経細胞間での神経伝達強度を抽出する移動エントロピー解析手法を確立した.本手法は,これまで主に用いられてきた相互相関法などと比較して,ネットワークを構成する神経細胞間の情報伝達の強度および方向を評価できることから,細胞間の情報伝達特性評価に有用であると考えられる.すでに神経細胞ネットワークにおいて移動エントロピー解析の有用性を示した学術論文を投稿準備中である. 一方で,顕微ラマン散乱測定系の立ち上げにも関わり,分子群のダイナミクス変化と神経活動変化の相関を解析する顕微鏡システムの構築を進めてた.本システムにより,細胞内分子の光捕捉下でのラマン散乱測定,およびラマン散乱と細胞外電位の同時計測に発展させることができる.構築したシステムは動作確認等の課題を残すが,次年度には問題なく運用できる. 以上の理由より,次年度では光ピンセットおよび顕微ラマン散乱測定と細胞外電位多点計測の同時計測による神経ネットワークダイナミクス測定が大きく進展すると考えられるため,本申請課題は「おおむね順調に進展している」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度となる2022年度は構築した光ピンセット顕微鏡,顕微ラマン散乱測定顕微鏡を継続して用い,細胞外電位との同時測定を進め,神経伝達に重要な細胞内分子制御,細胞内分子と電気活動のダイナミクスの相関を解析する予定である.また,2022年4月より申請者が研究機関を異動するため,異動先で推進されている神経ネットワークの構造や機能を高空間分解能に解析できる顕微鏡システム開発にも携わる予定である. 2022年度中にはシナプス伝達において重要な分子群であるシナプス小胞を近赤外レーザー集光により補足し,レーザー集光領域での二光子励起光蛍光変化と神経活動変化によりシナプス小胞の光捕捉に伴う電気活動変化の知見が集まると考えられ,これらの結果を統合して単一シナプスでの伝達制御が神経細胞ネットワーク活動に与える影響をまとめた論文を執筆・投稿する. 最終年度となるので,3年間で得られた知見を総合し,神経ネットワークの成熟過程で変化する電気活動ダイナミクス変化とその過程で変化する分子群ダイナミクスの網羅的な解析結果を総括する.
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Causes of Carryover |
顕微鏡システム構築にかかる費用が予想より安価で収まったため,当該年度の使用予定額が少なくなった.繰り越し予算は,次年度以降の消耗品費および学会発表や論文投稿関連費用に算入することを予定している.
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Research Products
(6 results)