2020 Fiscal Year Research-status Report
フェムト秒レーザー励起テラヘルツ波発生を利用した電気磁気ドメインの観測
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20K15159
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
木下 雄斗 東京大学, 物性研究所, 特任助教 (90825340)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | テラヘルツ科学 / 超高速現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず磁性強誘電体の電気磁気ドメイン可視化に向けてテラヘルツ波発生の光学系構築を行った。光源となるフェムト秒レーザーにはYbファイバーモード同期レーザーを用いた。Ybファイバーレーザーはオシレータ、アンプ、コンプレッサーで構成される。オシレータから発生するレーザー光は、繰り返し周波数100 MHz、パルス幅~200 fs、パワー50 mW、中心波長1040 nmである。オシレータから出力されたレーザー光はアンプにおいてパワー1 W程度まで増幅され、コンプレッサーにおいて120 fs程度までパルス幅を圧縮し出力される。これらのレーザーシステムは物性研究所の小林研究室より作成方法を提供いただき、自作した。本研究の目的である電気磁気ドメイン可視化ならびにパルス磁場、パルス電場等の外場下でのドメインダイナミクス観測には、測定時間短縮のためにシングルパルスでのテラヘルツ波発生光学系の構築が必要不可欠である。その前段階として、通常のテラヘルツ波の時間波形取得に用いられるステップバイステップを利用した光学系構築を行った。これは、テラヘルツ波とテラヘルツ波の検出に用いるプローブ光の光路長差を可動ステージによってスキャンすることで、テラヘルツ波の時間波形を取得するものである。テラヘルツ波の電場振幅の検出には非線形光学結晶GaPを用いたEOサンプリングによって行った。また、参照用のテラヘルツ波発生にはフェムト秒レーザー励起光整流過程を利用し、標準試料として同じくGaPを用いた。現時点では、上記のステップバイステップによるテラヘルツ波発生光学系の構築まで完了している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、フェムト秒レーザー励起によるテラヘルツ波発生を利用して、磁性強誘電体の電気磁気ドメインの可視化、ならびにパルス磁場、パルス電場等の外場下におけるドメインダイナミクスの観測を目的としている。本目的のためには、シングルパルスによるテラヘルツ波発生光学系の構築が必要不可欠である。本研究では数ミリ秒程度のパルス幅を有するパルス磁場中でのドメイン変化を詳細に測定するため、100MHz程度の高繰り返しのレーザーを用いた光学系構築を目指している。一方で、先行研究でのシングルパルステラヘルツ波発生光学系では1kHz程度の低繰り返し、かつ高出力のレーザーを用いており、本研究のような高繰り返し、かつ先行研究に比べパルス当たり数桁程度出力の低いレーザーを用いた例はない。そこで、本年度はシングルパルスによるテラヘルツ波発生光学系構築の前段階として、通常よく用いられるステップバイステップによるテラヘルツ波発生光学系構築を行った。構築した光学系をもとに、シングルパルスでの光学系構築を行っていく予定であるが、途中でテラヘルツ波発生の光源となるYbファイバーレーザーにトラブルが生じ、発振が停止している状況である。詳しい原因は不明であり、本研究の継続にはファイバーレーザーのオシレータならびにアンプ部分の再構築が必要不可欠な状況である。レーザーの再構築には必要物品の調達時間を含めて2、3カ月程度時間がかかるため、現在までの進捗状況としてはやや遅れているを選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、テラヘルツ波発生光学系の光源となるYbファイバーモード同期レーザーの再構築を行う。レーザートラブルの原因が不明なため、共振器に用いるYbファイバーを新調しレーザーを一から作り直す予定である。再構築に必要な物品を調達次第レーザーの再発振を完了させる。レーザーの再構築後は、現在までに構築したステップバイステップによるテラヘルツ波発生光学系でのテラヘルツ波発生およびその検出を確認したのち、シングルパルスによるテラヘルツ波発生光学系の構築作業に移行する。シングルパルスでのテラヘルツ波測定では、時間波形検出に用いるプローブ光をステップ状のナノ構造を有するエシェロン板に反射させることで、プローブパルス内に数十ps秒に及ぶ時間遅延を生じさせる。これによりシングルパルスでのテラヘルツ波の時間波形検出が可能となる。検出にはGaP結晶を用いたEOサンプリング法を用いる。非線形光学結晶であるGaPに測定するテラヘルツ波が入射した際に、同時に直線偏光のプローブ光を照射することでテラヘルツ電場に比例してプローブ光の偏光面が回転する。この回転角を偏光子によって光強度に変換して測定することでテラヘルツ波の電場振幅を測定する。本研究では検出器としてCCDカメラを用い、エシェロン板によって時間遅延を施されたプローブ光の偏光回転角を、光強度として空間分解して測定しテラヘルツ波の時間波形を得る。その後は電気磁気ドメイン可視化に向けたテストとして典型的な強誘電体(BaTiO3 等)中の強誘電ドメインを、構築した光学系によってイメージングする。イメージングは自動ステージによってレーザーの照射位置を試料上でスキャンすることで行う。イメージングのテストが完了したのち、種々の磁性強誘電体を対象にドメインイメージングを行う。
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Causes of Carryover |
本年度において、テラヘルツ波発生光学系の光源であるYbファイバーモード同期レーザーにトラブルが生じ、その再構築が必要となった。これにより本年度構築予定であったシングルパルスでのテラヘルツ波発生光学系構築がストップしたため、光学系構築に必要な光学部品購入が遅れ、次年度使用額が生じた。今年度は、まずYbファイバーモード同期レーザーの再構築に必要な物品(共振器に持ちいるファイバーなど)を購入する予定である。レーザーの再構築後は、シングルパルスでのテラヘルツ波発生光学系に向け必要な光学部品を調達する。また、テラヘルツ波光学系構築後はイメージング測定を行う予定である。本測定では励起レーザーの試料上での照射位置をスキャンするため、それに必要な精密自動XYステージ、およびそれを制御するステージコントローラなどを購入する予定である。
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