2020 Fiscal Year Research-status Report
Control of antiferromagneitc spin waves in synthetic antiferromagnets
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20K15161
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
塩田 陽一 京都大学, 化学研究所, 助教 (70738070)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピン波 / マグノン / 人工反強磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
スピン波(マグノン)を情報の処理、記憶、伝送などに用いる技術が提案されており、このような応用を目指した研究分野は「マグノニクス」として近年注目を集めている。本研究では、層間交換結合を有する人工反強磁性体中を伝搬する反強磁性スピン波の制御を目指して研究を行う。反強磁性体は、スピンが揃った強磁性体とは異なりスピンが互いに逆向きに結合している材料である。この反強磁性的に結合したスピンのダイナミクスを利用すれば、従来の強磁性体を用いたデバイスには無かった新たな自由度を追加する事ができる。そこで、本研究では多機能なスピン波論理演算素子に向けて、人工反強磁性体におけるスピン波伝搬の様々な物理現象を探索し、反強磁性スピン波を利用したマグノニクス応用への展開を目指す。 本年度は、スピン波の新しい検出方法として磁気光学Kerr効果と光ヘテロダイン検波法を利用した新しい測定系の立ち上げを行った。この測定法は、スピン波の強度と位相を高い空間分解能(サブμm程度)で測定することが可能である。まずは強磁性体Pyの磁性細線において、細線幅を変化させたときに観測されるスピン波ビーム、および強磁性細線幅方向に量子化されたスピン波モードの干渉の測定に成功した。また本測定の特徴であるスピン波の強度と位相の空間分布をフーリエ変換することで、スピン波の分散関係を得ることに成功した。これまで細線幅方向に量子化されたそれぞれのスピン波モードの減衰長を求めることはできなかったが、本測定ではそれを可能にした。 またFeCoB/Ru/FeCoB構造を有する人工反強磁性体においてスピン波伝搬モードを測定すると、音響モードと光学モードの共鳴周波数に反交差が観測された。理論的な考察から、これはスピン波の双極子相互作用に起因するマグノン-マグノン結合であることがわかり、これまでに報告されていない新しい現象であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
磁気光学Kerr効果と光ヘテロダイン検波法を利用した新しい測定系の立ち上げは、比較的順調に進み、強磁性体Pyではあるが高い空間分解能(サブμm程度)でスピン波の強度と位相を測定することができた。これらの成果はApplied Physics Letters誌とPhysical Review B誌に掲載された。 またFeCoB/Ru/FeCoB構造を有する人工反強磁性体において、スピン波伝搬モードを測定したところ、音響モードと光学モードの共鳴周波数に反交差が観測されるという予想外の結果が得られた。理論的な考察から、これはスピン波の双極子相互作用に起因するマグノン-マグノン結合であることがわかり、これまでに報告されていない新しい現象であることが分かった。この成果はPhysical Review Letters誌に掲載された。 その他にも、垂直磁気異方性を有する人工反強磁性体や希土類-遷移金属フェリ磁性体におけるスピン波共鳴の観測や理論的な検討も論文としてまとめることができた。 以上のことから、当初の計画以上に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、今回立ち上げた光学測定の手法を用いた人工反強磁性体のスピン波測定は行えていない。そのためにはさらなる改良が必要なため、今後は人工反強磁性体においてもスピン波の光学測定が行えるように測定系を改良していきたい。また、本研究の目的である反強磁性スピン波を用いた新たなスピン波の自由度の可能性についても検討を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
(理由) ほとんどの学会・研究会がオンラインとなり、当初予想していた旅費の支出がほとんど無かった。また新しい測定システムの開発段階であり、一部保留中の物品がある。 (使用計画) 昨年度の開発状況に基づき、測定システムを完成させる。
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Research Products
(15 results)