2020 Fiscal Year Research-status Report
ナノ光ファイバー共振器と原子の結合系における基礎理論と量子情報処理
Project/Area Number |
20K15190
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
山越 智健 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 研究員 (30801245)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 量子光学 / 光共振器 / 非線形現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子情報処理への応用に向けて、共振器系における電磁場の特性解析および制御の手法について研究を進めている。主な対象は、複屈折性を有するファイバー型共振器と周期構造が複合した系であるが、多様な量子操作について考察するため、様々な共振器系や非線形効果などの研究も行っている。 本年度はまず比較的簡単な1次元化された共振器系に対して、様々な効果について検討するため解析的手法を基にした解析を行った。その一つとして減衰を有する、振動するミラーによって構成された共振器系において研究を行った。ミラーの振動数および減衰項を変化させることによって四光波混合を制御する手法について、学術論文として発表した。また、複屈折性を有するファイバー型の共振器系に対しては解析的な計算を進めており、学術論文として発表することを予定している。 数値計算の面からも研究を進めていくが、本年度は計算機の導入を完了した。現在までに、多層膜系で用いられている転送行列法による数値計算手法を基に、周期系における光学特性の制御について検討した。ファイバー型共振器と周期構造の複合系は大きな系となり、直接的に数値計算で解析するためには非常に高い計算コストがかかる。計算コストを下げるために、一部の領域に対して時間領域差分法(FDTD法)を適用し、その結果を転送行列法に適用することを予定している。 付随する問題として非線形効果を利用した制御についても、非線形シュレディンガー方程式(NLSE)を数値的に解くことにより、研究を進展させた。周期構造がある場合では、ソリトン解や非線形ブロッホ関数など非自明な解が現れる。時間非依存なNLSEを数値的に計算するコードを開発し、特殊な解の特性について考察を行った。またNLSEで記述可能な冷却原子系についての動的な制御について一定の成果を得た。非線形光学系における動的な制御について、今後研究を展開していく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
解析計算の手法からは、比較的簡単な1次元系に対する問題について取り組んだ。手法としては二つのアプローチを用いている。一つ目は、生成消滅演算子を用いたHeisenberg-Langevin方程式の記述から出発し、平均場近似を用いた簡略化を適用して、共振器の光学特性について解析するものである。この手法を減衰のある、振動するミラーによって構成された共振器系に適用した。ここではインプット光、プロープ光、ミラーの減衰項および振動項を制御可能なパラメーターとして四光波混合について考察した。もう一つは、多層膜系で用いられている転送行列法である。周期構造と共振器の結合系全体を解析的に計算することは難しいため、複屈折性を持つファイバー型共振器部分についてのみ考察し、その特性について評価する。現在までに1次元化された模型における透過光および反射光の応答について解析解を得ており、この模型でFano共鳴や電磁誘起透明化(EIT)などの共鳴現象が統一的に記述できることを確認した。現在はこの解析解を用いてパラメーター依存性についての考察を行っている。 数値計算の観点からは、周期系と複屈折性の複合系に対して転送行列法を適用し、入力光による制御について考察した。複屈折性によって誘起されるFano共鳴やEITなどの共鳴現象に加えて、周期系によって誘起されるバンド構造がスペクトルに反映されることを確認した。また時間に依存しないNLSEを数値的に解くことで、周期系における非線形効果について考察した。特に1次元において二つの異なる周期を持った構造中での非線形ブロッホ解、ソリトン解について研究を進めている。NLSEは、非線形光学系のみならず冷却原子系も記述可能であり、冷却原子系における動的な制御については、ソリトン解の実験的生成手法について一定の成果を得た。非線形光学系への応用も今後展開していく。
|
Strategy for Future Research Activity |
解析的手法の観点からは、前述の二つのアプローチを拡張することを考える。生成消滅演算子を用いた手法では、複屈折性を有するキャビティ系へと拡張し、基礎的な理論について考察する。加えて、実験的に実現可能なミラーの振動制御や共振器と原子が結合した系などに拡張する。この系を考察することにより、より高い制御性を有する量子デバイスを考案する。 一方で転送行列法は数値計算を用いた拡張を試みる。複屈折性を有するファイバー型共振器とグレーティングの複合系は、系全体が比較的大きくFDTD法などは非常に高い計算コストがかかることが想定される。そのため区分的にFDTD法を適用して有効的なパラメーターを推定し、得られた結果を転送行列法に適用することを考える。この手法では実験で得られた光学特性の再現を試みると共に、現在までに行われていない、より複雑な制御について考察する。加えて、ファイバー間の結合やファイバーと原子間の結合系を考察するため、ファイバー型共振器系でのエヴァネッセント光についての有効的な理論について考案する。 また、現在までに得られた非線形効果についての解析を光学系へと適用することを考える。主としてソリトン解の実験的生成法とファイバー系における長距離伝送について考察する。特に異なる周期を持つ構造の複合系(基準周期と2倍周期の複合など)における非線形効果については、理論的な研究も多くはない。そのため、NLSEで記述可能な冷却原子系や励起子ポラリトン系など、様々な分野への応用も同時に考察する。
|
Research Products
(3 results)