2020 Fiscal Year Research-status Report
Terahertz emission spectroscopy of mid-infrared active photocurrent dynamics in Weyl semimetals
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20K15198
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
五月女 真人 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (40783999)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シフト電流 / 光電流 / 太陽電池 / テラヘルツ / 超高速分光 / 中赤外 / 半金属 / 半導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
光吸収に伴って電流が生じる光電流は太陽電池や光検出器などに広く用いられている物理現象である。そこでは、電子と正孔が粒子として移動するという古典的描像が信じられてきた。しかし最近、電子雲がコヒーレントに瞬時に伝搬する「シフト電流」という光電流の描像が近年の新型太陽電池の基礎であると理論が提唱されはじめた。シフト電流は「瞬時に」単位格子を超えて伝搬する非局在性を持ち、これが高効率性に関連しているという理論が提唱されている。 本研究の目的は、超短パルスレーザー照射による光電流からアンテナ放射される電磁波(テラヘルツ帯)を観測・解析することによって、量子力学的光電流の超高速ダイナミクスやその大きさを評価することである。実施責任者はこれまでの研究で近赤外~可視域(0.5-2.6eV)においてシフト電流感受率を評価する研究を行ってきた。本研究では、中赤外域で高い光電変換効率が提唱されはじめた物質群で中赤外光励起でのシフト電流を観測し、光電変換デバイス応用の端緒を開くことを目指している。今年度は、波長5マイクロメートルの中赤外パルス光励起でテラヘルツ放射を観測する実験系を構築でき、参照物質ZnTeでテラヘルツ波発生を観測した。 併せて、中赤外域に分子内・分子間振動モードによる吸収ピークを持つことが多い有機非線形光学結晶を候補物質として幅広い波長帯でテラヘルツ波発生を探索した。吸収のない近赤外光励起で非線形光学効果による高効率なテラヘルツ波発生が見いだした(査読あり論文)。吸収される短波長のレーザーパルス励起でもテラヘルツ波発生を見出し、シフト電流の発生が示唆された。中赤外域には光学フォノン吸収があることから、中赤外光吸収による光電流も期待される。そのほか、励起子共鳴励起でのシフト電流のモデル物質として研究した化合物半導体におけるシフト電流ダイナミクスに関連して1論文を投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(初年度)は、フェムト秒パルスレーザー励起で発生させた光電流から放射されるテラヘルツ電磁波を観測・解析することで光電流ダイナミクスを200fsの時間分解で観測する「テラヘルツ放射分光」において、中赤外光励起での実験を実現し、その技術的課題を明らかにした。これまでの研究で0.5-2.6eV励起の実験技術は確立していたが、中赤外光0.2-0.5eVのフェムト秒パルスは光学材料での吸収・回折などの影響で特殊な光学系が必要であった。本年度には、室温で0.3eVの中赤外パルス励起で反射光の方向に発生するテラヘルツ波を観測するシステムの構築に成功した。 参照物質として化合物半導体ZnTeに中赤外パルスを照射し、反射光の方向に放射されるテラヘルツ波を観測することができた。0.3eV励起で1.5THzまでノイズフロア以上の振幅を持つ、ピーク振幅の信号雑音比10以上のテラヘルツ波が観測された。これは先行研究と同程度である。一方、回折によるスポットの広がりや空気中の水蒸気による吸収減衰など、中赤外光励起実験の技術的課題が明らかになり、現在、改善した実験系を構築中である。また、外回路への取り出し効率の評価と中赤外光のスポット位置評価を目的として、テラヘルツ波発生と同時に回路光電流も観測するシステムを構築した。 理論的考察も進め、反転対称性の破れた半金属のみならず有機非線形光学結晶において高効率な中赤外光励起シフト電流の発生が期待されることを見出した。有機結晶は中赤外域に光吸収を持つことが知られており、無機結晶と同程度に中赤外光をよく吸収する結晶もある。さらに、非線形光学結晶では結晶の反転対称性が破れており、非線形光学伝導度テンソルの対称性からシフト電流の発生が期待されることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
中赤外光に活性な超高速光電流ダイナミクスの観測のためにテラヘルツ放射分光が実施可能なことを初年度に明らかにすることができた。中赤外光取り扱いの技術的課題からテラヘルツ放射光学系を新たに構築する必要があることが明らかなったため、今後はこれをすみやかに構築する。中赤外励起光電流の超高速ダイナミクスを観測し、シフト電流感受率・散乱確率などの量子力学的性質を明らかにする方針である。具体的には、励起波長・偏光・励起強度依存性を詳細に評価する。テラヘルツ波形からシフト電流のサブピコ秒ダイナミクスを定量的に解析する技術をもちいて、中赤外励起光電流のバンド構造との関連を調べる。 また、外部回路に流れる光電流を併せて測定する計画である。これまでに、回路電流とテラヘルツ放射振幅が完全な比例関係にはない現象がみられている。テラヘルツ放射は光電流の量子力学的超高速ダイナミクスを観測できるため、回路電流と組み合わせることで相補的情報を得ることができる。また、回路電流のレーザー照射位置依存性は光電流の機構により異なることが知られており、超高速光電流の回路電流への寄与を明らかにする。 また、対象物質についても広げこれまでの物質と比較研究する計画である。2020年、第一原理計算からある種の有機結晶がワイル半金属のバンド構造をもつことが報告された。これまで対象としてきた物質はレアメタルや有害元素を含む問題があり、この問題がない有機結晶または有機無機ハイブリッド結晶にも探索の価値があると検討している。
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Causes of Carryover |
中赤外光励起でのテラヘルツ波発生を観測することに成功し、実験上の課題を明らかにすることができた。これまで近赤外-可視光励起を行っていた実験系では、光源から試料までの距離が4m程度あるために中赤外光では回折広がりの影響が大すぎる問題があることが明らかになった。また、中赤外光の取り扱いは近赤外光や可視光とは大きく異なり、専用の光学系が必要であることが明らかになったため、テラヘルツ放射実験系を新たにレーザー光源の近く(~1m)に構築する必要が生じた。中赤外光励起での課題の検証はできた。 同じ仕様のフェムト秒レーザーシステムを使用することができるために研究の遂行上の問題はないものの、所属機関変更に伴い新たに実験系を構築する必要が生じた。この分光実験系のために追加で必要な物品を導入中であり、次年度使用額が生じた。本年度の早い時期に、中赤外励起テラヘルツ放射分光の実験系の光学部品や制御機器を導入する計画である。
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Research Products
(1 results)