2020 Fiscal Year Research-status Report
超伝導転移端検出器を用いた高感度XAFS法による環境中の放射性核種の挙動解析
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20K15204
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
QIN Haibo 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (60867969)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | XAFS / 放射性核種 / TES |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで蛍光XAFS測定では、エネルギー分解能のあるケイ素やゲルマニウムを素子に用いた半導体検出器(SDD、SSD)で種々の元素のXRFや散乱X線を分離して検出し、高感度な分析を実現してきた。しかし、これらの検出器のエネルギー分解能は100-200 eV以上あり、多元素を含む環境・宇宙地球科学試料では元素間の干渉などで目的元素を検出できない例が多くあった。その場合、我々は分光結晶を用いて目的のXRFを分離する蛍光分光法を本課題でも実施してきたが、この方法は分光結晶の調整に多大な時間を要し、また対象元素を自由に選ぶことはできない。この点、TESは2-15 keVの範囲で極めて高い分解能(6 keVで5 eV程度)でX線を同時計測でき、殆どの系で相互の干渉なく特定の元素のXRFを検出できる強力な検出器である。そのためTESは、環境・宇宙地球科学試料やそれ以外の様々な分野でのXAFS法の適用範囲を大きく拡大できる検出器であり、今後、放射光施設への常設などが大いに期待される。そこで、TESを用いた蛍光XAFS実験をSPring-8 BL37XUで行った。TESとしてNIST製の240素子(X線吸収体はビスマス)の検出器を用いた。TESはビームタイムの10日前から冷却試験を行い、TESの環境および性能評価試験をリモートで実施し、ビームタイムの開始に合わせて極低温(~70 mK)で計測を開始した。総計数率の上限が2000 cps程度であるため、試料に入射するX線の強度を調整し、検出器に入るXRF・散乱X線強度をその制限以下に抑えた。XAFS測定に当たっては、~2 keV以上のX線パルスを素子ごとに保存し、波形に最適化フィルタをかけて各パルスのX線エネルギーを決め、各エネルギー当たりの単位時間当りのパルス数を得た。今年度はこの検出器特性を明らかにするために、その基本的な特性評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの経験を基に今年度も同様のTES実験を行い、当初計画した実験を計画通り遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今回行った実験では、TESの評価に約60元素がドープされたSiO2ガラス標準試料(NIST-SRM610)を用いた。SRM610のXRFスペクトルから、SDDでは分離不能なFeのKα線とREEのL線が明瞭に分離されると共に、Fe のKα1線とKα2線が分離されていた。これらから、地球惑星科学試料で濃度が高い鉄が存在する場合でも、REEのXRFやXAFSが測定可能であることが示唆された。一方、計数率が増大した場合には、TESでは各パルスの処理に10 msec程度の時間を要するため、十分に低い死活時間で検出できる上限の計数率は、各素子当たり10 cps程度であると推定された。今回は240素子のTESを用いているので、これは2400 cps程度の計数率となる。実際にこの計数率以下では、Mn Kα線の半値幅を用いたエネルギー分解能は5-6 eV程度と見積もられたが、計数率が5000 cpsを超えた場合、エネルギー分解能は10 eVよりも悪くなった。このように、十分なエネルギー分解能を保つためには、計数率を低く抑えて測定をする必要がある。地球化学・環境化学試料の場合、5 keV以上の吸収端を持つ元素中では鉄が主要成分である場合が多いため、Feを励起する7.11 keV以上のX線を使う場合のTESの利用には、アルミ等によるFeのXRF強度の低減などの工夫を施す必要がある。今後は、これらの研究をさらに発展させると共に、マイクロ/ナノXRF-XAFSにもTESによるXRF検出を適用し、超微量元素の局所状態分析を進めたい。また、XRFをその寿命幅を超えた高いエネルギー分解能で分析することで、従来よりも高いエネルギー分解能でXANESを得るHigh Energy Resolution Fluorescence Detection-XANESについてもTESが利用できるかを検討していく。
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Research Products
(4 results)