2020 Fiscal Year Research-status Report
核医学治療のためのラジウムイオン選択的大環状キレート配位子の創出
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20K15206
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
永田 光知郎 大阪大学, 放射線科学基盤機構附属ラジオアイソトープ総合センター, 助教 (10806871)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ラジウム / 環状エーテル / 放射化学 / 錯体化学 / 同位体化学 / アルカリ土類金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルファ線を放出するラジウム-223をより精度の高いがん治療へ適用するため、ラジウムを生体内で安定に保持するための配位子開発を目的としている。ラジウムイオンが巨大な二価カチオンであることと、硬い酸素原子を持つリン酸の豊富な骨に集積しやすい性質であることから新規に配位子を設計した。これは大きなカチオンに対して選択性を持つ大環状エーテル部位を持ち、この部位にピリジン環にホスホン酸が直接結合したアームが2つ結合することで1分子中で10配位が可能な大環状配位子H4Lを新しく合成した。 配位子は各種分光学的測定法によって同定を行い、電位差滴定法により酸解離定数を明らかにした。続いて、この配位子H4Lを用いてバリウム錯体の合成を行ったところ、その結晶構造からバリウムとH4Lは1:1の錯体を形成しており、M-O結合は2.66Åであることが判明した。この値をホスホン酸部位からカルボン酸に置換した配位子のバリウム錯体と比較すると、ホスホン酸の方が約0.1Åほど短くなっていた。このことからH4Lの方がより安定なバリウム錯体を形成することが期待された。しかし、バリウムとホスホン酸を有するH4Lとの錯安定度定数logKBaLは、カルボン酸の場合と比較して約4桁低いことが判明した。この安定性低下の原因を探索するため、現在、環状エーテル部位の炭素数の異なる配位子合成を試みている。加えて、この配位子についてもバリウム錯体を合成し、その安定性や錯体構造を評価して、ホスホン酸とカルボン酸の構造的ならびに電子的な違いとの関係を明らかにする予定である。また、ラジウム-223とH4Lを常温で混合しradioTLCによって錯形成反応を評価すると、BaH2Lと同様の位置にスポットが観測されたためRaH2L錯体の形成が示唆された。錯体由来のスポットは、配位子濃度の変化に応じて放射能濃度が増減することも判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に計画をしていた通り、ホスホン酸を含有する新規大環状配位子合成H4Lおよびバリウム錯体を合成し、その安定性評価について実施した。それに加えて、プロトアクチニウム-231からラジウム-223を分離した溶液を用いて、この配位子H4Lを有するラジウム錯体を合成することができた。 しかし、当初は昨年度中にラジウム-226を用いて合成するラジウム錯体のXAFS測定を実施予定であったが、コロナウィルスに伴う許認可の遅延に伴い、ラジウムを大型放射光施設で使用許可が降りていないため、ラジウム錯体のXAFS測定自体を行うことができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
既に2020年度の内に合成した大環状配位子H4Lと同様の手法を用いて、新たに炭素数の異なる環状エーテルに対して、ピリジンホスホン酸アーム部位を導入した新たな大環状配位子を合成する。これらを用いてまず、バリウム錯体の安定度定数を測定することで、このアームを持つ環状エーテルが、バリウムイオンに対して最も適した環の大きさを明らかにする。加えて、このときに合成した環状エーテルへはピコリン酸アームも導入し、バリウム錯体の単結晶X線構造解析や分光学的性質を行うことにより、各種ピリジンに結合したホスホン酸ならびにカルボン酸のアームの構造的、電子的な違いが、バリウム錯体の安定性に影響を与える要因を明らかにする。 次に、大型放射光施設のラジウムの使用許可が2021年6月に下りるため、ラジウム-226を用いた錯体のXAFS測定を7月に実施予定である。同時にバリウム錯体も測定することで、バリウムとラジウムのカチオン周りの配位構造の違いについて明らかにする。この情報に基づいて、新たな配位子設計に必要な情報をフィードバックする。 最後に、ラジウム-223と配位子H4Lの安定性を評価する上で、錯形成反応においてラジウムのロットによって配位子濃度に対してのラジウム錯体の形成率のバラつきが障害となっている。ラジウム溶液中に錯形成を妨害するプロトアクチニウム-231由来の元素の存在が考えられるため、これらをICP-MSにて定量し改善していく予定である。その結果に基づいてラジウム錯体の安定度の定量的な評価を試みる。
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Causes of Carryover |
現在、実験室が入っていた建物が改修工事を実施しているため、学内のオープンラボを実験室として間借りしている状態である。この改修工事は2020年10月には終了する予定であったが、2021年4月に工期が延長した。間借りしている実験スペースは狭く、物品を購入しても設置困難であったことから、導入予定であった実験機器類の購入を控えた。 改修工事後には特に実験機器類、特に電位差滴定装置、エバポレーター、合成反応装置に関わる物品を購入する予定である。 また、コロナウィルスの影響で放射性同位元素の使用施設の許認可が遅延しているおり、ラジウムのXAFS測定も遅れている。この測定溶液の調製に用いるグローブボックス周りの物品も購入予定である。 なお、2020年度はコロナウィルスの影響によって予定していた学会等の出張は基本的には無く、リモートで対応することになったため、予定の旅費が掛かることが無かった。2021年度もリモートでの学会や会議等での参加を予定しているが、学外の放射光施設やRI施設での実験や見学を予定しているため旅費を計上する予定である。
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Research Products
(6 results)