2020 Fiscal Year Research-status Report
重水素プラズマにおける核反応を利用した高エネルギー粒子計測法の確立
Project/Area Number |
20K15208
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
川本 靖子 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (70824720)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | LHD / ドップラー拡がり / 可視分光 / He / NBI |
Outline of Annual Research Achievements |
核融合炉の運転を維持するためには、中性粒子ビーム入射(NBI)などの外部加熱や核反応によって生成される“高エネルギー粒子”による内部加熱が必要不可欠であり、その挙動を把握する必要がある。本研究では、重水素プラズマを対象として、“核反応を利用した高エネルギー粒子の計測手法”を新たに確立する。具体的には、重水素プラズマで発生する核反応生成物3HEから放出される発光スペクトルのドップラー拡がりを測定することで高エネルギー粒子の計測をする。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHD(LARGE HELICAL DEVICE)重水素実験を利用して本手法の検証・開発を行う。高エネルギー粒子は、核融合プラズマのエネルギーバランスに大きな影響を及ぼすため、核融合炉の成立性に関わる重要な因子であり、その解析・実験的検証を行うことは、核融合炉の実現に対して大きな貢献となる。また、分光計測を利用したプラズマ診断に新たな可能性を提示することができる。 提案されている計測手法に対して想定するプラズマ条件は現存するプラズマ実験装置での実証が困難であるが、代表者が所属する核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDでは22サイクル実験においてHEビーム入射が実施されることから、本研究の模擬実験が可能である。そこで、当該年度ではLHD実験におけるHEビームのドップラーシフト計測実験の実行可能性及び研究に対するプラズマパラメータの影響を調査することを目的とした検討を計算で示し、プラズマ核融合学会第37回年会において発表を行った。 また、実際に22サイクル実験を利用して本手法の模擬実験を行った。ただし、炉内でのHEの蓄積に関して現状の排気システムではHE粒子の制御に課題があることが明らかになった。具体的には炉内に残留したHE粒子(バルク成分)がHEビーム(高エネルギー粒子成分)の観測に影響することが実験的に示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究での具体的な実施概要を以下に示す。 ①解析モデル開発による調査:Fokker-Planck方程式を元に、高エネルギー粒子(He)の分布関数を導出し、観測されるドップラー拡がりを評価する。 ②プラズマ実験による本手法の評価:LHDプラズマ実験を利用して、開発した解析モデルプログラムの検証及び本手法の成立性を評価する。 ①に関する進捗状況として、Fokker-Planck方程式を元に高エネルギーHe粒子由来のドップラー拡がりを評価する開発プログラムを開発した。②に関しては、当初の計画ではLHDにおいて重水素プラズマから発生するHeを想定した実験を予定していたが、LHD第22サイクル実験において、Heビーム入射が計画されたため、上記開発したプログラムを利用して実験条件に合わせた解析を行い、その評価結果をプラズマ核融合学会第37回年会において発表した。また、第22サイクル実験で行われたHeビーム入射を利用して、本手法の模擬実験及び解析モデルの結果を用いて妥当性評価を行った。このHeビームを用いた実験には既存の分光設備を使用することができ、この結果から当初予定していた重水素プラズマから発生するHeを想定した実験の見通しを立てることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していたLHD重水素プラズマを用いた高エネルギーHe粒子の観測実験を行う。 実験詳細は以下の通りである。 I. 重水素プラズマを想定し、重水素NBIによって重陽子速度分布関数上に形成される重陽子の高エネルギー粒子を検証実験の観測対象とする。II. (1)式で発生する3He+の可視光(Δn = 3-4,λ=468.57 nm)をCzerny-Turner型可視分光計測器で計測する。III. 3Heはプラズマ中で完全電離するため、軽水素NBI(LHDはビームエネルギー180 keV)で荷電交換し、電子が脱励起する際に放出するドップラーシフトした光を捉える。 また、本観測実験においては、Boltzmann-Fokker-Planckをベースとした解析モデルの検証及び、高エネルギー粒子の解析を行う。計算で得られた結果を基に、計測されるスペクトルの予測を行い、実験結果との比較を行う。 昨年度実験から、LHD内にHeの蓄積が問題となったため、当該年度では、粒子の方向依存性についてのモデルを構築し、最適なポート位置からの計測を行うことで観測の可能性を高める。また、それに伴いHeの分光に特化した分光器製作を行う。
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Causes of Carryover |
当初提案した際は、LHDにおいて重水素プラズマから発生するHeを想定した実験のための準備として、予算を計上していましたが、急遽、LHDでのHeビーム実験が予定されたことで、本手法の最終目標である“核反応を利用した高エネルギー粒子計測手法”を模擬した実験を行うことができると考え、Heビームを用いた高エネルギー粒子の観測実験を優先することに致しました。 このHeビームを用いた実験には既存の設備を使用することができ、この結果から当初予定していた実験の見通しを立てることができたため、より適した実験設備を今年度以降に計画することが可能となりました。 また、出張費に関しては、新型コロナによる制限から現地での発表が困難となった分は、今年度以降の実験設備に活用することで、さらなる進展を予定しています。
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