2020 Fiscal Year Research-status Report
Structural identification of water at liquid/liquid interfaces by surface-selective vibrational spectroscopy
Project/Area Number |
20K15234
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
浦島 周平 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 助教 (30733224)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 光干渉 / 和周波発生分光法 / 液/液界面 / 振動スペクトル / 疎水性水和 / ヘテロダイン検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
疎水性界面における水の水素結合構造を明らかにするため、有機溶媒/水界面の振動スペクトル(ヘテロダイン検出振動和周波発生スペクトル;HD-VSFGスペクトル)計測に着手した。本研究では、有機相・水相どちらも薄膜ではなく厚い(~ミリメートル)バルク相を用いる。これは、これまで水上に自発的に薄膜を形成できる有機物にしか適用できなかったHD-VSFG分光法の適用の幅を広げ、任意の有機溶媒や溶液と水との界面を計測するために不可欠である。本年度は特に有機溶媒の選定、また液/液界面の計測を行うための光学セルの設計を行った。 溶媒については、まず溶媒抽出などの観点から水との界面の重要性が指摘されているトルエンに着目した。ところがトルエンの赤外吸収ピークは最も高波数でも3100 cm-1程度であるにも関わらず、3500 cm-1の赤外レーザーはトルエン相を透過できないことが判明した。このことの原因として、(1)トルエンにわずかに溶解した水の影響、(2) 3100 cm-1の芳香族性CH伸縮バンドの裾が高波数側まで広がっている、という2つの可能性が疑われた。しかし無水トルエンを用いていること、またトルエンの赤外スペクトルを測定したところ水由来の吸収が見られなかったことから、赤外レーザーがトルエンを透過しないのはCH伸縮バンドの裾が原因と判断した。そこで全ての水素原子を重水素で置換した重トルエンを用いたところ、重水素化率99%で十分に赤外光が透過できることを確認した。 光学セルについては、光学窓を側面に設ける構造と天面に設ける構造の二通りを検証した。その結果、側面窓構造では窓/トルエン/水三相界線に無視できない大きさのメニスカスが現れてしまうという問題が判明した。 以上の検討より天面窓構造のセルと重トルエンを組み合わせたところ、重トルエン-金界面からのヘテロダイン干渉和周波発生信号の取得を達成した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度の研究を通して、有機溶媒に埋もれた界面から和周波発生信号を得るための条件(溶媒の種類、セルの構造)を確立できた。埋もれた界面からの信号取得は液/液界面のHD-VSFG計測を目指す過程で予想された困難の一つであり、これを解決できたことは評価に値する。特に、信号光と参照光のヘテロダイン干渉が観測されたことは重要であり、原理的には重トルエン-金界面を重トルエン-水界面に置き換えれば信号の計測が可能となる。一方、当初の研究計画では前年度中に水界面からも信号が得られている予定であった。水界面の場合、界面の高さが測定ごとにバラついてしまう可能性があり、これがどの程度問題になるか、また問題になるならばどのように解決するかを前年度中に検討できなかったため、問題の難易度によっては今後の研究に支障が現れる可能性がある。以上の理由により、進捗はやや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、重トルエン-水界面に対して信号計測を行った場合にどのような問題が発生するか、早急に検討する。もしトルエン-水界面の高さ(位置)が測定ごとにバラついてしまう場合、まず計測セルを現状よりも大型化し、水量のばらつきに対する高さの誤差を小さくする。また、セルに埋め込んだネジによって内部の容積を外部から調節できるセルを開発する。トルエンに埋もれた金からは既にヘテロダイン干渉信号が得られていることから、信号強度そのものは水界面からも十分に得られると予想される。そこで水界面の高さの再現性が取れ次第、重トルエン-水界面のHD-VSFG計測に着手する。 当初の計画ではヘテロダイン検出における位相参照として重トルエン-重水界面を使用することを構想していたが、進捗状況によっては重トルエン-軽水界面のHD-VSFGスペクトルのうち位相が既知のバンドを内部参照として利用する。この手法では位相が既知のバンドが必要となるという技術的制約があるが、本申請研究の科学的目標(疎水性界面における疎水性水和ネットワーク構造の解明)はこの手法でも達成できると考える。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行により、参加を予定していた国際学会(Pacifichem 2020; Hawaii)が延期となった。次年度使用額は当初計画の旅費にほぼ相当しており、もし今年度に延期となったPacifichemの開催時期(2021年12月)において現地参加できる情勢であればその旅費に充てられる。一方、もし12月においても渡航が難しいと予想された場合はオンライン参加とし、重トルエン・重水など高額試薬の購入や光学セルの開発費に充てる。
|