2020 Fiscal Year Research-status Report
新構造Janus型デンドリマー多核錯体の創成と分子素子への展開
Project/Area Number |
20K15242
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
高田 健司 東京理科大学, 研究推進機構総合研究院, 助教 (90792276)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | デンドリマー / 多核錯体 / 電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、デンドリマー配位子を用いて合成した多核錯体に関して、その同定を行うために電子顕微鏡観察を用いた立体構造解析法の精密化を行った。 デンドリマーにイリジウムを11~17個配位させた多核錯体を合成し、その高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)観察を行った。この観察手法では、原子番号が大きい原子ほど高コントラストに観察できる利点があり、特に重金属元素を有機軽元素と明瞭に区別して観察できる。この原理を利用した原子分解能電子顕微鏡観察を行うことで、電子顕微鏡像中の重金属原子の座標を決定することができる。HAADF-STEM像内の金属原子の配置は元の金属錯体の立体構造を反映しているので、HAADF-STEM観察を通じて多核金属錯体の構造を決定することが原理上可能である。 照射電子線量を減らしてデンドリマー―イリジウム多核錯体の分解を抑制しつつ原子分解能観察を行い、得られたHAADF-STEM像に対してシミュレーション像との比較を行った。電子顕微鏡像のシミュレーションソフトを用いて、デンドリマー―イリジウム錯体の様々な立体配座・空間配置に対するHAADF-STEM像を計算によってシミュレーションを行い、それぞれのシミュレーション像と実験で観察された像とのイリジウム原子の配置のずれを両者の一致度として定量的に評価することで、最も一致度が高いシミュレーション像を与える立体配座を決定することができた。すなわち、本研究により、デンドリマー錯体のような複雑な立体構造を持つ多核錯体の立体構造を単分子レベルで解明できることが実証できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、デンドリマー多核錯体の合成上の難関点であった構造決定法の精度の向上に関して、電子顕微鏡観察における観察条件の検討および得られた像とシミュレーション像との定量的比較法の確立を通して立体構造の推定が可能なレベルまで押し上げることに成功した。この結果は、令和3年度に予定しているデンドリマー多核錯体の合成やその応用展開をする上で重要であるため、研究は順調に進行していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年の研究結果を踏まえ、令和3年度においてはデンドリマー―イリジウム多核錯体をもとにしてヘテロ金属多核錯体の合成とその応用について研究を進める予定である。 これまでの研究でペプチド化反応や配位子置換反応を用いたヘテロ多核錯体化についての知見を経ている。今後は、反応条件の詳細な検討により合成収率の向上と目的物の単離を目指すとともに、紫外可視吸光スペクトル測定や密度汎関数法を用いた理論計算などの実験・理論の両面からヘテロ多核錯体の電子状態の解明を目指す予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度においては、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、計画当初予定していた大型放射光施設での出張実験や対面での学会発表を行うことができなかったため、旅費の支出が計画より大きく減じた。さらに、緊急事態宣言の発令や所属研究室での同感染症の予防対策のため、研究室での在室時間の制限が大きく、消耗品などに支出する物品費が減少した。 これらの次年度使用額は、令和3年度の研究において改めて行うSPring-8への出張実験のための旅費、合成した多核錯体の同定や物性評価に用いる物品のための物品費や共用実験設備の利用費として用いる予定である。
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