2020 Fiscal Year Research-status Report
典型元素を含むPAH間の相互作用を基軸とした動的化学システムの創出
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20K15258
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
安藤 直紀 名古屋大学, 理学研究科, 特任助教 (80848979)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 典型元素 / 多環芳香族炭化水素 / ホウ素 / Lewis酸・塩基平衡 / 配位結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,典型元素が組み込まれた多環芳香族炭化水素(PAH)間での,Lewis酸・塩基平衡を基軸にした動的分子系の創出を目的としている.本年度は,1)典型元素を含むPAH間でのLewis酸・塩基平衡の検証,2)ホウ素を含むPAHのLewis酸性の向上に取り組み,以下の成果を得た. 1)典型元素を含むPAH間でのLewis酸・塩基平衡の検証:PAH骨格にボロール構造を組み込むことで高いLewis酸性を付与できることを明らかにしている.今回,ボロール骨格を組み込んだPAHを用いて,PAH間での錯形成の可能性を検討した.Lewis塩基性を示すPAHとしてホスファトリアンギュレン誘導体を用いて滴定実験を行い,ホウ素-リン錯体の形成に伴う吸収スペクトルの変化を確認した.同時に,単結晶X線結晶構造解析を行い,ホウ素-リン間での配位結合をもつLewis酸・塩基錯体の構造を明らかにした.また,温度可変吸収・蛍光スペクトル測定により,このホウ素-リン錯体では,光照射下でホウ素-リン結合の開裂が生じることを見出した. 2) ホウ素を含むPAHのLewis酸性の向上:ボロール骨格を含むPAHを基盤に,Lewis酸性をさらに向上させたPAH骨格の創出に取り組んだ.理論計算を用いて基質のスクリーニングを進めた結果,ボロール環にボレピン環を縮環させた化合物が種々の誘導体の中で最も高いLewis酸性をもつことが示唆された.この化合物の合成を行い,ピリジンとのLewis酸・塩基錯体として単離に成功した.その結晶構造では,ホウ素まわりが歪みのない四配位構造をとることを明らかにした.また,強いLewis酸やメチル化剤を作用させることで,ピリンジが解離した化合物が定量的に生成することを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,高いLewis酸性をもつホウ素含有多環芳香族炭化水素(PAH)をもちいて,典型元素を含むPAH間でのLewis酸・塩基錯体の形成に成功した.また,当初の狙い通り,この錯体が温度に応答して可逆的に配位結合を形成することや光照射下で配位結合が開裂することを見出している.また,これまでに一連のホウ素を含むPAHのLewis酸性について,実験および理論計算により構造物性相関を検証しており,基質のLewis酸性を見積もることが可能である.これを利用することで効率よくホウ素を含むPAHを設計することができた.実際,設計した化合物を合成したところ,既報の化合物と比較して高いLewis酸性をもつことを示唆する結果が得られている.以上の結果から,本課題はおおむね順調に進行していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,動的分子系の確立に向けて,令和2年度に得られた研究成果をもとにホウ素含有PAHのLewis酸性のチューニングを行う.ボロール骨格を組み込んだPAHを用いることで典型元素を含むPAH間でのLewis酸・塩基平衡を実証できたが,ホスファトリアンギュレン誘導体との会合定数は小さく,錯形成には過剰量のLewis塩基が必要であった.この結果を踏まえて,ホスファトリアンギュレン誘導体よりもLewis酸性が低いと予想される窒素含有PAHをはじめとするLewis塩基性PAHとの錯形成を実現するため,より高いLewis酸性をもつホウ素含有PAHの創出に継続して取り組む.同時に,種々のLewis塩基性PAHとの錯形成挙動を精査する.また,これまでにホウ素含有PAHのLewis酸性の評価に用いてきた手法では,今後合成するホウ素含有PAHのLewis酸性を定量的に評価できない点が課題である.そこで,一般的なLewis酸性の評価手法を参考に,一連のホウ素含有PAHにおけるルイス酸性の評価手法を確立する.加えて,これまでに得られているホウ素-リン錯体をモデル系に,結晶中での発光特性や外部刺激(光・熱・圧力)による物性の変化を検討し,本分子系ならではの応用の可能性を探索する.
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Causes of Carryover |
本年度は,本研究を遂行するうえで不可欠な高いLewis酸性をもつホウ素含有 PAHの合成を行った.理論計算を用いてスクリーニングを行い,標的分子の設定・合成を進めたが,当該分子の反応条件および精製条件の検討に多くの時間を費やしたため,小スケールでの検討が中心となった.この際,当該研究室で並行して進められている研究プロジェクトと合成用試薬や実験装置などを共有することができ,当初計画で算出していた経費を抑えることができたため,次年度使用額が生じた. 次年度は,本年度確立した合成経路をもとに,スケールをあげた合成や各種誘導体の合成を行う予定である.その前駆体の合成にもちいるパラジウム触媒をはじめとする合成用試薬の購入にあてる.また,化合物の物性評価のための高純度溶媒や重溶媒など測定用試薬の購入費,測定機器の使用料としても使用する予定である.
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