2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K15262
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
宮崎 隆聡 福岡大学, 理学部, 助教 (70788504)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 多環芳香族炭化水素 / 構造有機化学 / π電子材料 / 吸収・蛍光 / 光物性 / 有機π電子 / ドナー-アクセプター |
Outline of Annual Research Achievements |
多環芳香族炭化水素(PAH)はベンゼン環の縮環形式によって種々のHOMO-LUMOギャップや安定性を持ち、それに起因した光化学特性や電子的特性を示す。本研究は、直線的にベンゼン環が縮環したアセンに代わる優れた光化学特性や電子的特性を示しうるPAHとして、Y字型に縮環したPAHを提案し、その合成法と物性を評価するものである。その中で、申請者は2,3-ナフタルイミドにベンゾチオフェンおよびベンゾフランが2つ縮環したY字型化合物1および2を合成し、それらの化合物が溶媒の種類によって異なる蛍光波長を示す蛍光ソルバトクロミズム特性を持つことを明らかにした。測定溶媒として、シクロヘキサン、トルエン、THF、酢酸エチル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、DMF、DMSO、アセトニトリル、エタノール、メタノールの12種類を用いた。吸収スペクトルにおいては、1と2はともに吸収極大のわずかな溶媒依存性を示し、溶液色の変化は観測されなかった。一方、蛍光測定においては、1と2の蛍光極大は大きな溶媒依存性を示し、溶媒極性パラメータET(30)と蛍光極大に直線関係が得られた。ベンゾチオフェンが縮環した1は2よりも大きな溶媒依存性を示し、蛍光色はシクロヘキサンの青色からメタノールの黄色までの変化が観測された。蛍光量子収率においてはベンゾフランが縮環した2が1よりも大きな値を示した。1と2での蛍光の溶媒依存性の違いは、2のHOMO準位が1のそれよりも低くなっており、それに起因するドナー性の低下によってpush-pull型電子構造が弱まったためと考えている。量子収率の違いについては、1と2の構造に起因していると考えている。DFT計算により2は平面構造を持つ一方で、1は室温で異性化可能なヘリカル構造を持つことが示唆された。そのため、1は励起状態で分子運動が大きくなり量子収率が下がったと考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、電子ドナーとしてベンゾチオフェンが2,3-ナフタルイミドに縮環したドナー-アクセプター型の化合物1を合成し、その光化学特性を明らかにした。そこで、本年度は、ベンゾチオフェンの代わりにベンゾフランを用いた化合物2を合成することで、ドナー性の違いによって光化学特性がどのように変化するかを評価した。その結果、ドナー性の低い化合物2は1よりも小さな蛍光の溶媒依存性を示した。一方で2は1よりもすべての測定溶媒において大きな蛍光量子収率を示した。これらの結果を、DFT計算を合わせて考察した。それにより、ドナー-アクセプター型のY字型 PAHの蛍光溶媒依存性は電子的特性に、量子収率は分子構造に起因するという知見を得ることができた。以上により、Y字型PAHの光化学特性に与える電子的特徴と分子構造の影響を明らかにすることができ、今後の研究展開の指針を得ることができた。そのため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
蛍光ソルバトクロミズムを示すY字型化合物1と2を応用、発展させることを考えている。具体的には、環状ホストと化合物1または2を融合させることで、溶媒の種類のみならず、会合状態の変化にも応答する蛍光分子を開発、評価する。それにより、今回新たに合成した1と2をより特徴づけることを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延防止策としての人数制限措置によって、十分な研究時間の確保が難しい状況にあった。そのため、次年度まで研究計画を延長する必要が生じた。使用計画として、本研究を推進するために必要な物品や試薬の購入を予定している。
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