2020 Fiscal Year Research-status Report
リグニンの変換を志向した機能性二核錯体触媒によるC-O結合変換反応の開発
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20K15268
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
東田 皓介 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任助教 (20845466)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | C-O結合活性化 / 協働触媒作用 / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、遷移金属触媒と典型金属の協働作用によって不活性な炭素-酸素結合を活性化し、変換反応に応用することで、天然に豊富に存在する芳香族エーテル化合物の効率的な化学変換を実現することを目標としている。本課題を達成するために、量子化学計算を使用して事前に触媒が有する配位子構造を、炭素-酸素結合の切断に必要な活性化エネルギーに着目しながら検討し、触媒活性を予測した後に、実際の触媒分子の合成と活性評価に取り組む。これまでに計算科学的手法によって、遷移金属であるニッケル錯体が、典型金属であるマグネシウムとの協働作用によって、炭素-酸素結合を低い活性化エネルギーで切断可能な触媒分子モデルを得ている。今年度は、実際に計算化学によって設計したイミダゾール環を内包するNHC配位子を合成し、本配位子を用いて調整を行ったニッケル触媒の活性評価を行った。その結果、計算科学的な手法によって得られた金属錯体触媒は高反応性ゆえに非常に不安定な分子であり、炭素-酸素結合変換反応条件下で触媒分子の分解を引き起こし、触媒として機能しないことが示唆された。一方で、本配位子は銀に安定的に導入することが可能であり、本銀錯体がアルキン側鎖を持つカルボン酸に対しルイス酸-塩基の協働作用を伴った環化反応への高い触媒活性を示すことが明らかとなったため、本配位子の化学的性質と反応活性に対する知見を論文として投稿した。 不活性な炭素-酸素結合の活性化に対し優れた触媒分子を探索するうえで、上記に述べた量子化学計算では予想しなかった触媒分子の分解が問題点となることが明らかとなった。そのため、上記で合成した配位子が如何に分解しているかを明らかとすることで、分解を引き起こさない配位子の構造を新たに提案し、触媒分子の再設計を引き続き行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計算化学的手法によって得られた錯体モデルをもとに設計した配位子を応用して、アルキン側鎖を持つカルボン酸の環化反応に対し高い活性を有する触媒分子の開発に成功した。本結果は当初予定していたニッケル-マグネシウムの協働作用触媒とは異なる性質をもった触媒であるものの、触媒の活性サイトにおいてルイス酸としての銀と塩基としてのイミダゾール環の二点で単一の基質を活性化することに成功している。これは、C-O結合をルイス酸として活性化するマグネシウムと、実際の切断を担うニッケルの協働作用触媒を設計するうえで、触媒サイトに適切な位置関係で二種類の金属を配置するための重要な知見が得られたといえる。また、今回設計したC-O結合活性化のための錯体触媒の問題点は、配位子構造の不安定さであることが判明しているために、これからの計算化学による触媒設計へと反映させることが可能であり、今後の進展も十分に期待される。そのため、本研究課題の初期段階として十分な研究的知見が得られているために本課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度得られた実験的な結果をもとに、再度計算科学的手法によって触媒分子の設計を進めていく。すでに、新たな触媒分子モデルの計算結果が随時得られてきているため、これらの触媒分子がC-O結合を活性化するのに必要なエネルギーを比較することで、評価を行い、実際に錯体触媒の合成に着手し触媒活性の評価を行っていく計画である。本研究課題を通して、上記の計算化学的手法では触媒分子の分解までは予測できないものの、量子計算を用いて分解経路を明らかとするためには膨大な計算コストが必要となるため、触媒分子が分解を引き起こした際は、実験科学的手法により分解経路を特定することで計算によるモデル設計へと情報を反映し、効率的かつ合理的に研究を進めていく。また、計算モデルでは、C-O結合をマグネシウムによってルイス酸的に活性化しニッケル触媒によって切断する形での評価を行っているが、他のルイス酸性を示す金属に対しても評価を行うために、実際の触媒分子が合成した際には、種々のルイス酸を用いて実験科学的に活性のスクリーニングを行い、本結果も量子化学計算に反映させる計画である。
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Causes of Carryover |
今年度は、COVID-19の影響により多くの学会が取りやめになったことから、学会への参加費と旅費に変更が生じた。また、実験計画においてターゲットとしていた反応基質とは異なる基質が必要となり消耗品である試薬の購入費に変更が生じたため、次年度使用額が発生した。これらの経費は消耗品費として計上する計画である。
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Research Products
(2 results)